研究課題
本研究では、彗星コマ中のメタン重水素体による極めて微弱な輝線の測定を目指し、波長3μm帯における最高感度の地上近赤外線高分散分光観測を実現するため、独自開発のイマージョン回折格子を用いた新しい近赤外線高分散分光器を開発する。2023年度は、これまでの設計や評価実験の結果をもとに、分光素子の製作、機械式冷凍機の保持機構といった実機用パーツの製作に着手した。また、赤外線検出器の保持機構の開発、二次元赤外線検出器の低温読み出し試験を進めた。分光素子の製作について、厳密結合波解析法(RCWA法)を用いてイマージョン回折格子の絶対回折効率を計算し、そのブレーズ角依存性と頂角依存性を調査することで、装置の効率が最大になる仕様を決定した。その仕様通りの形状を持つ回折格子を実現した。機械式冷凍機の保持機構について、まず空気ばね式除振台上に機械式冷凍機のコールドヘッドを固定して振動の測定を行い、振動特性を評価した。振動が装置に伝わらないように抑制する工夫を施した保持機構を設計、製作した。赤外線検出器の保持機構について、クライオスタットを開けることなくアライメントの調整が行えるようにモーターを使った保持機構を設計した。二次元赤外線検出器の低温読み出し試験について、使用する実験用クライオスタットに対してリーク問題を解消する対策を施した。効果はあったものの、検出器の低温評価を実施するにはまだ不安が残るため、改良を継続している。開発と並行して既存装置を用いた赤外線高分散分光観測も行った。
3: やや遅れている
最新の研究動向に合わせた装置仕様の見直し、および新型コロナウイルス感染拡大・ウクライナ情勢に起因した工業製品・材料の供給不安定のため前年までの段階で遅れが生じていた。加えて急激な円安の進行により当初予定していたよりも物品の入手や製作が困難になったため。
これまでの新型コロナウイルス感染拡大・ウクライナ情勢に起因した工業製品・材料の供給不安定、急激な円安の進行により、本事業で当初予定していた海外での観測まで達成することは予算的に難しい。そこで研究代表者が台長を務める神山天文台で開発が進められてきたセラミック光学系を性能実証も兼ねて大学の経費で導入することで事業期間内での装置の完成を目指す。この光学系の導入により、まず装置の性能が格段に安定し、メンテナンスや海外移設における再調整のコストも押さえられ、長期的な視点で見ると大きなメリットがある。神山天文台荒木望遠鏡に取り付けてファーストライトを行い、金星などのスペクトルを実際に取得することで装置の性能を実証するとともに科学的成果も創出する。海外での観測については、本研究で対象としている天体以外の観測への利用を希望する研究者(すでに興味を示している方が複数いる)とも連携するなどして新たな予算を獲得して実現を目指す。極めて明るくなる彗星の出現が見込まれる場合は、これまでの経験と実績をもとに観測提案を行い、口径8-10m級望遠鏡に取り付けられている赤外線高分散分光器を用いたメタン重水素体の輝線検出も目指す。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 9件)
The Astronomical Journal
巻: 167 ページ: id.32
10.3847/1538-3881/ad0e02
巻: 166 ページ: id.233
10.3847/1538-3881/acee59
巻: 166 ページ: id.207
10.3847/1538-3881/acfee7
巻: 165 ページ: id.231
10.3847/1538-3881/acc074
Applied Optics
巻: 62 ページ: 2827~2834
10.1364/AO.486773