研究課題
本研究では,北海道浦幌町白糠丘陵西部の川流布川上流部において野外調査を実施し,白亜紀/古第三紀境界層付近の連続的な地層を見出すことができた.この地層を対象に,石灰質ナンノ化石,浮遊性有孔虫化石,底生有孔虫化石層序を構築するとともに,古地磁気層序とオスミウム同位体比層序,白金族元素分析,バイオマーカー分析を実施した.その結果,微化石層序と古地磁気層序から明らかになった白亜紀/古第三紀境界付近の地層から,隕石衝突層準において汎世界的にみられるオスミウム同位体比の大きな負のシフトを見出すことができた.この負のシフト層準に対して,さらに高解像度での試料採集(層厚20 ㎝間隔)を実施し,全岩におけるイリジウム含有量の検討を行った.その結果,白亜紀/古第三紀境界層においてイリジウムの増加がみられるものの,世界中の他のセクションよりもその含有量はかなり小さいことも明らかになった.そのため,隕石衝突直後の地層の一部が欠落している可能性も明らかになった.本地層は,白亜紀最上部から古第三紀下部にかけて,一様に泥岩のみからなる単調な岩相のため,白亜紀/古第三紀境界を跨いだ古環境の変動についても有効に検討できる.バイオマーカー分析の予察的な結果によると,白亜紀/古第三紀境界を挟んで当時の陸上植生に有意な違いが見出すことができた.一方,底生有孔虫群集は白亜紀/古第三期境界を挟んで有意な変化が見られず,北西太平洋の半深海底では顕著な環境の変化が生じなかった可能性もあることが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
北海道浦幌町白糠丘陵西部の川流布川上流部における地質調査と試料採集はすでに終了し,各種分析を実施中である.古地磁気層序についてはほぼすべての層準における分析を終了し,本検討区間がC29の逆磁極期であることが明らかとなっている.古第三紀最下部の火山灰層に含まれるジルコンのU-Pb放射年代測定の結果, 65.44±0.89 Maという年代値が得られた.最新の年代モデルによると,白亜紀/古第三紀境界は66.02 Maのため,本結果は誤差の範囲内で一致する.さらに誤差の小さな年代測定を実施するため,境界付近に挟まる火山灰層のジルコンをBoise State UniversityのMark Schmitz教授に依頼している.オスミウムの同位体比層序の検討では,白亜系最上部は0.6付近の値を持続するが,白亜紀/古第三紀境界部で0.3にまで減少し,その後,古第三紀には0.45にまで増加する傾向が見られた.この急激に同位体比が減少する層準は,浮遊性有孔虫化石層序(白亜紀区間からはRugoblobigerina属,古第三紀区間からはEoglobigerina属が産出)と石灰質ナンノ化石層序(白亜紀最上部層準でWatznaueria barnsiaeの産出と,Thoracospaera属のアクメがみられる)の結果とも整合的で,白亜紀/古第三紀境界をほぼ特定できたと考えられる.古地磁気極性の検討結果も全てこの区間は逆磁極を示すことから,上記の解釈と整合的である.
2024年度は最終年度のために,これまでの成果(特に白亜紀/古第三紀境界の発見)に関する論文を出版することを当面の目標にする.一方,バイオマーカー分析や底生有孔虫化石分析を引き続き実施し,ほとんど明らかにされていない北西太平洋域における白亜紀末~古第三紀にかけての古環境変動を解明することを第二の目標とする.
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Communications Earth & Environment
巻: 5 ページ: 1-8
10.1038/s43247-024-01214-z