研究課題/領域番号 |
21H04510
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
望月 公廣 東京大学, 地震研究所, 教授 (80292861)
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研究分担者 |
山下 裕亮 京都大学, 防災研究所, 助教 (80725052)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 地震の巨大化 / 断層境界 / 海洋地殻 / ヒクランギ沈み込み帯 / 流体の挙動 |
研究実績の概要 |
ヒクランギ沈み込み帯中部に位置するプレート間固着強度遷移域では約5年周期で大規模なスロースリップが発生しており,前回の2016年11月から約5年後の2021年ころの発生が予想されていた.実際に2021年5月に,ニュージーランドの共同研究機関であるGNS Scienceと共同で展開した海底地震・地殻変動観測網の直下で大規模スロースリップが発生し,これの直接観測に初めて成功した.観測データについては,海底地震観測については本研究グループによって,また海底地殻変動観測についてはGNS ScienceおよびVictoria University of Wellingtonにおいて解析を進めている.海底地震観測の初期的解析からは,スロースリップに伴うテクトニック微動の活動を捉えていることが確認できた.テクトニック微動の空間分布について,固着強度遷移域の強度分布に沿った,非常に明瞭な活動境界を持っていることが明らかとなった.またテクトニック微動の活動は,スロースリップの発生以前の2021年2月から始まっており,徐々にヒクランギ・トラフ軸に沿って南下するとともに, 3月から4月にかけて固着強度遷移域に位置する活動境界周辺で最も活発な活動を示したことがわかった.この活動は4月中旬には一度静穏化し,5月のスロースリップ発生に伴って再活動を始めたが,活動強度としては,スロースリップ発生前の活動と比べて相当に低く,また空間的にも限定的であることが明らかとなった. このスロースリップ,およびそれに伴うテクトニック微動の直接観測の成功を受け,2021年10月には,スロースリップ発生域における定常的な地震,あるいはテクトニック微動の時空間分布を調査するために,スロースリップが約2年周期で発生するヒクランギ沈み込み帯北部にて,海底地震・地殻変動観測網を展開した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は,国際共同による海陸統合大規模観測によって断層すべりと流体の挙動を直接捉え,断層境界周辺における断層すべりのメカニズムを明らかにし,地震が巨大化する条件の理解に資することにある.ヒクランギ沈み込み帯の中部では,プレート間固着強度が急変し,断層すべり過程にも明瞭な境界が認められ,これまでの研究から,この境界が海洋地殻内の流体生成量の不均質に起因し,断層すべりも流体の挙動に依存していると考えられる.このプレート間固着強度遷移域では,約5年周期で大規模なスロースリップが発生しており,このスロースリップに伴うテクトニック微動や通常の地震活動を観測し,これらの時空間分布の関係などから,流体の挙動に関する情報を得ることが必要である. 本研究では,ニュージーランドの研究機関と共同で,海陸統合地球物理観測網を展開し,前回(2016年11月)の発生から5年後の2021年から2022年にかけての発生が予想されるスロースリップおよびそれに付随するテクトニック微動や通常の地震活動について,観測網内の直接観測を目指した.2021年5月には,予想していた大規模スロースリップが観測網直下で発生し,2021年9月には海底観測機器も無事回収,また観測データも問題なく記録されていることを確認したことから,スロースリップおよびそれに伴うテクトニック微動や通常の地震活動の直接観測にすでに成功しており,観測として重要な成果を上げることができた.また,暫定的な解析からは,テクトニック微動活動の空間分布とプレート間固着強度分布との強い相関,さらには,テクトニック微動活動の時空間発展とスロースリップとの関係など,今後の解析を通して重要な結果が得られることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
約5年周期で大規模なスロースリップの発生が見られるヒクランギ沈み込み帯中部に位置するプレート間固着強度遷移域において,スロースリップや,それに伴うテクトニック微動,および通常の地震における断層すべりの全体像を把握するため,ニュージーランドの研究機関と共同で海陸統合地震・地殻変動観測網展開した.この観測網による2021年5月に発生したイベントの直接観測の成功を受け,スロースリップにおける断層すべり,テクトニック微動の時空間発展,さらに通常の地震活動の震源分布などに関して,ニュージーランドの研究機関と共同で解析を進めていく. また,スロースリップの発生サイクルにおける断層すべり現象の全体像把握のために,2021年10月にヒクランギ沈み込み帯北部に,海底地震・地殻変動観測網を展開した.2022年9月から10月にかけて,ここで設置した海底地震計を回収する.2022年10月からは,米国コロンビア大学ラモント・ドハティ地球研究所も加わって,同海域においてスロースリップおよびそれに伴うテクトニック微動などの観測網直下における直接観測を目指した,大規模な海域地球物理観測網を展開する. 海域下で発生した微動,および繰り返し地震の活動に関する解析手法や,海域下プレート境界における流体の挙動の直接把握を目的とした,海底における環境雑音の自己相関解析によるプレート境界周辺構造の時空間変化の解明に向けた手法の開発を引き続き進める.また,海底圧力計による高サンプリング圧力記録について,地震波到達時刻の検測に用いることを目的として,その時刻精度の検証を進める.過去の地震・テクトニック微動の活動を把握するため,これまでに陸域地震観測網で取得された観測波形記録の整備を進める.
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