研究課題/領域番号 |
21H04511
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平田 岳史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10251612)
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研究分担者 |
伊藤 正一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60397023)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 隕石ナノ粒子 / 液中レーザーアブレーション / 高速質量分析 / ナノ粒子個別分析 / 同位体組成異常 |
研究実績の概要 |
本研究では独自に開発した超高感度・高速ナノ粒子質量分析計を用いて数億個以上の隕石マトリックス粒子(隕石ナノ粒子)を大規模分析し、宇宙ナノ粒子を発掘(マイニング)する。これまでに白金、チタン、ジルコニウムを主成分とするナノ粒子から同位体組成情報を引き出すことに成功した。一方でオスミウムを主成分とする粒子は検出できなかった。難揮発性元素であるオスミウムを主成分とする粒子の存在度が低い理由については、まだ不確定であるが、太陽系内での変質作用の可能性が指摘できる。白金とジルコニウムに関しては,これらの元素に濃集した粒子が検出できたが、同位体組成が太陽系の平均値と有意に異なる粒子は検出されなかった。まだ試料数限定的(3000粒子程度)であるため結論的なことは言えないが、ナノ粒子レベルで同位体組成が均質化されている可能性を示唆している。一方でチタンについてはおよそ3000粒子が検出され、このうち3個に関しては太陽系とは有意に異なる同位体組成を持つことがわかった。そのうちの1個については、同位体組成パターンが超新星爆発で合成されるものと類似していた。来年度は継続的に測定を進め、粒子数を1万以上にまで拡大し、より詳細な統計的解析を行う予定である。一方で問題点も見いだされた。隕石マトリックスには水質変性により生じた粘土鉱物が存在し、レーザーサンプリング時に様々な金属元素が溶出し、分析の支障(スペクトル干渉の原因)となることも新たに明らかとなった。この問題に対しては、液中レーザーアブレーションでの溶媒の極性を変化させることで、溶出を低減させることができた。来年度は、グループの異なるいくつかの始源的隕石に対して、最適化した溶媒での粒子抽出および個別分析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では数億個以上の隕石マトリックス粒子(隕石ナノ粒子)を大規模分析し、宇宙ナノ粒子を発掘(マイニング)する。この目的に向け、新たにレーザーを用いたナノ粒子の抽出法と、大規模個別分析法の独自開発を行ってきた。いずれも独自の技術を応用したものであり、類似した研究例がなく、その実践的応用に際しては数々の課題が明らかとなった。この課題の克服と並行して、分析手法のコモディティー化を想定し独自の解析ソフトウエアの開発を行ってきた。こうした実験体制の整備に時間を要し研究結果の公表が遅れたが、R5年度にようやく最初の業績を学術論文として公表することができた(Kurihara et al., Geochem. J., 2023)。この研究論文は、将来的には宇宙化学だけではなく環境化学、材料化学、生命化学分野で広く活用できる新しいベンチマーク的分析手法となり得る。さらに宇宙化学的にも新たな展開が図れつつある。本研究では特に、重元素合成の主要過程である「早い中性子捕獲反応(r過程)」に注目し 、r過程核種に富む2つの元素、オスミウム(Os)と白金(Pt)に濃集した宇宙ナノ粒子のマイニングと同位体分析を目指してきたが、白金に比べオスミウムを主成分とする粒子が少ないこと、白金に関しては同位体組成の異常が見いだされていないことが明らかになった。まだ分析粒子数が限定的であるため結論的なことは言えないが、現在の太陽系形成モデルではこれらの結果を包括的に説明することは困難である。現在、これらの宇宙化学的特徴を包括的に説明する新しいモデルの構築も並行して進めており、本研究の第一目標(同位体組成異常の検出)が見いだされなかった場合も、原始太陽系物質に対して強い制約を付すことができる可能性がでてきた。これは研究開始時には想定していなかった新たな研究展開であり、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では独自に開発した超高感度・高速ナノ粒子質量分析計を用いて数億個以上の隕石マトリックス粒子(隕石ナノ粒子)を大規模分析し、宇宙ナノ粒子を発掘(マイニング)する。本研究では特に、重元素合成の主要過程である「早い中性子捕獲反応(r過程)」に注目し 、r過程核種に富む2つの元素、オスミウム(Os)と白金(Pt)と質量数の異なるいくつかの元素を対象とし、それらに濃集した宇宙ナノ粒子のマイニングと同位体分析を行う。特にOsは原子核宇宙年代測定法として年代情報を保持するため、その初生同位体情報から元素合成頻度(特に中性子星合体の頻度)が推定でき、銀河内での太陽系形成過程に関する新しい物質化学的知見を引き出すことが可能となる。そこで本年度は、レーザーサンプリングに際して水以外の溶媒(特にイオンを溶解しない低極性溶媒)を用いたレーザーサンプリングを採用し、さらに隕石を構成するナノ粒子の個別分析を進める。また、変性の影響が少ない部分の特定を目的に、独自に開発したバリア放電イオン源を用いた有機イメージング質量分析法を組み合わせ、本年度は隕石試料への実践的分析を加速する。令和6年度は、隕石からの実践的データ蓄積を進め、宇宙化学的研究に関する業績を積極的に学会・論文等で公表する。
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