研究課題
火星探査車キュリオシティには粉末X線回折(XRD)装置が搭載されており、堆積物試料のXRDデータから粘土鉱物スメクタイトの層間化学組成を推定することが可能である。推定された層間化学組成に基づき、かつて堆積物が接触していた水の水質を制約することができる。これまで地球陸上に多く存在するスメクタイトであるモンモリロナイトの層間組成とXRDパターンの関係はよく検討されていたが、火星のスメクタイトの大部分を占めるサポナイトやノントロナイトではほとんど理解されていなかった。本研究ではモンモリロナイトに加え、ノントロナイト、ヘクトライト、サポナイト、鉄サポナイトの層間組成とXRDパターンの関係を相対湿度制御XRD法により系統的に測定した。その結果、低湿度条件において、サポナイトはモンモリロナイトよりも水蒸気を吸収しやすい性質があり、XRDパターンは同じ層間組成でも変化する場合があることを明らかにした。キュリオシティによる探査から、ゲールクレータ湖沼堆積物には非晶質鉄酸化物が存在することが推定されている。非晶質鉄酸化物は準安定相であり、水の存在下で時間とともに結晶性鉄酸化物へと変化する。地球上低結晶性鉄酸化物はゲーサイトへと相転移することが多いが、火星ではゲーサイトはほとんど存在せず、ヘマタイトへと相転移したことが推測されている。本研究では様々なpHおよび塩濃度条件における低結晶性鉄酸化物の変質挙動を実験的に検討した。その結果、低塩濃度条件において低pHでは従来認めらえていたように、低結晶性鉄酸化物はゲーサイトへと変質するが、塩濃度が高い場合、ゲーサイトではなくヘマタイトへと変質することを明らかにした。この結果はかつて水を介して鉄酸化物が沈殿した火星環境は普遍的に塩濃度が高かったことを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
火星に存在するサポナイトやノントロナイトの層間陽イオン組成とXRDパターンの関係を明らかにすることができた。また火星に普遍的に赤鉄鉱が産出する原因がかつて存在した特殊な水環境に起因することを示すことができた。
当初の予想と反して、NASA火星探査車パーシヴィアランスのラマン分光測定において現在までジェゼロクレータに粘土鉱物を検出していない。地球上において粘土鉱物は土壌に普遍的に存在することを考えると、パーシヴィアランスのラマン分光測定において粘土鉱物が適切に検出されない可能性がある。今後、本研究で開発したパーシヴィアランスとほぼ同じ仕様の時間ゲートラマン分光装置を用いてこの可能性を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件)
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