研究課題/領域番号 |
21H04529
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 孝 北海道大学, 工学研究院, 教授 (30237408)
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研究分担者 |
戸田 裕之 九州大学, 工学研究院, 教授 (70293751)
藤村 奈央 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40732988)
竹内 晃久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主幹研究員 (70426526)
上杉 健太朗 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主席研究員 (80344399)
上椙 真之 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主幹研究員 (20426521)
小熊 博幸 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (80515122)
古谷 佳之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (60354255)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | ギガサイクル疲労 / 内部起点型破壊 / 真空 / 放射光 / き裂発生 / き裂進展 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,高強度金属材料に生じる超高サイクル疲労破壊のメカニズムを明らかにし,その評価法を構築することにある.析出硬化系ステンレス鋼(SUS630)と2種類のチタン合金((α+β)型Ti-6Al-4Vおよびβ型Ti-22V-4Al)を対象として,材料内部に発生する微小き裂の挙動をSPring-8の放射光X線マイクロ/ナノCT(ビームライン:BL20XU)を用いて明らかにする.主な実施項目は,① 放射光X線マイクロ/ナノCT技術の高度化とin-situ疲労試験システムの開発,② 高強度鋼とチタン合金の2系統の材料における内部き裂発生・進展・停留挙動の解明,③ 超高サイクル疲労評価コードの開発,の3つである.2021年度は,このうち①に注力し,以下に示す2項目を行う計画とした.
【放射光X線マイクロ/ナノCT技術の高度化】 本研究で用いるマイクロCTおよびナノCTの分解能は,それぞれ約1μm,数百nmである.材料内部のき裂をマイクロCTで検出し,そのき裂をナノCTにより高倍率で非破壊観察する.ナノCTはSEMに匹敵する分解能の観察を可能とするが,従来のシステムでは一回の測定に約1時間が必要であり,疲労試験とCT撮影を多数繰返す場合には,この観察時間が研究の律速因子となっていた.そこで2021年度は,ナノCTの光学系(ゾーンプレート,位相板など)の最適化を試みた.その結果,従来の半分以下の時間でSEMレベルのイメージングが可能となった. 【in-situ疲労試験システムの開発】 ビームライン上に設置し,任意の負荷を試験片に与えられるin-situ疲労試験機の開発を行った.ピエゾアクチュエータ,ロードセル,アクリル製透過菅などで構成される小型サーボ疲労試験機を新たに開発し,ビームラインの試料台に直接設置して,疲労試験と観察を同時に行う実験手法を確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べたように,2021年度は,3つの研究項目のうち①に注力する計画を立案した.一方,研究が順調に進捗したため,①に加えて②および③についても前倒しで検討を行い,有益な成果を得ることができた.これにより現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると判断した.以下に具体的な実施項目を述べる.
② 高強度鋼とチタン合金の2系統の材料における内部き裂発生・進展・停留挙動の解明 項目①で構築した,新たな光学系による放射光マイクロ/ナノCTシステムおよびin-situ疲労試験システムの評価を兼ねて,β型Ti-22V-4Alに発生する微小疲労き裂の非破壊観察を試みた.次年度以降に行う内部き裂の観察の予備実験として,表面のき裂に注目し,ビームライン上で疲労試験とCT観察を行った.その結果,表面き裂の発生位置と組織との関係を明らかにするとともに,き裂が組織のどこをどのように進展するかを特定した.以上の結果は1編のJournal(Xue Gaoge, et al., Engineering Fracture Mechanics, DOI: 10.1016/j.engfracmech.2022.108308)に掲載されている. ③ 超高サイクル疲労評価コードの開発 (α+β)型Ti-6Al-4Vを対象とし,本研究グループが放射光X線CTを用いて蓄積してきたデータを基に,内部微小き裂の発生寿命,発生位置,初期長さなどの情報を整理し,統計的な性質を抽出した.これらの結果をもとに表面および内部の疲労破壊過程を記述するモデルのプロトタイプを構築した.このモデルを用いてモンテカルロ法による数値計算を行うことにより,超高サイクル域における寿命分布特性を解析した.以上の結果は1編の国内雑誌(森下弘法ほか,材料,巻,号,ページ未定)への掲載が決まっている.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に述べた3項目のうち,2022年度は,②高強度鋼とチタン合金の2系統の材料における内部き裂発生・進展・停留挙動の解明,③超高サイクル疲労評価コードの開発,に取組む.前者については,2021年度に構築した,新たな光学系による放射光マイクロ/ナノCTシステムおよびin-situ疲労試験システムを本格的に活用し,材料内部における微小き裂の発生・進展過程を観察する.対象材料は(α+β)型Ti-6Al-4Vおよびβ型Ti-22V-4Alの2種類を予定しており,特にき裂の発生寿命,進展速度,き裂開閉口挙動,停留挙動を明らかにする.後者については,2021年度に試作した (α+β)型Ti-6Al-4Vの疲労破壊過程を記述するモデルを,β型Ti-22V-4Alおよび析出硬化鋼SUS630に適用できるように拡張する.以上の項目を着実に実施することで,2023年度以降の研究に備える.
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