研究課題/領域番号 |
21H04534
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澄川 貴志 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80403989)
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研究分担者 |
梅野 宜崇 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (40314231)
島 弘幸 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40312392)
服部 梓 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (80464238)
安部 正高 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (50582623)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | ナノ / フレクソエレクトリシティ / 強誘電体 / 座屈 / メカニカルメモリ |
研究実績の概要 |
令和3年度の研究実績は、以下のように纏めることができる。1.強誘電体材料であるチタン酸バリウム(BaTiO3)単結晶を対象とし、集束イオンビーム加工装置を用いて二重片持ち梁試験片を作製した。本試験片では、中央部にナノサイズの試験部を有する。試験片に対して真空加熱処理を施すことにより、試験部に対してナノサイズの異なる分極領域(ドメイン)が規則的に配列したナノドメイン構造を形成させた。この時、試験部のドメイン壁の方向が反転している二種類の試験片を用意した。透過型電子顕微鏡内でドメイン構造の変化をその場観察をしながら曲げ負荷試験を行った結果、最大負荷においてドメイン構造は完全に消失した。続いて、除荷を行うとドメイン構造が再び現れた。しかし、片方の試験片においては初期のドメイン壁の向きが反転した構造が現れ、完全除荷後にはもう片方の試験片と同じドメイン構造となった。力学的な検討を行った結果、本試験片中のナノサイズの試験部において曲げ変形による急峻なひずみ勾配が現れ、フレクソエレクトリシティの効果によって、除荷時に再度現れる分極方向が制限され、最終的に試験片間で同様のドメイン構造となったものとの仮説を立てた。一方、この仮説を確定させるために必要である試験部の初期の分極方向の特定が困難であったため、次年度に改良した負荷実験を実施してその検証を行うこととした。2.最終年度に実施する力学的分極反転を可能とする二次元サンプルに対する分極測定のために必要な試験システムの設計を行った。3.解析による力学的な検討を目的として、フェーズフィールド解析手法の整備を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、研究計画上は強誘電体のナノ試験片に対する負荷実験を行い、フレクソエレクトリシティの効果を実測することが主な目的である。負荷実験には、これまでに実績のある手法(二重片持ち梁試験片を用いた曲げ負荷手法)を採用することとした。試験片中央に位置するナノサイズの試験部のドメイン構造が反転した2種類の二重片持ち梁試験片を考案し、その場観察負荷実験を行い、力学的な負荷によってドメインのスイッチング現象が起こりうることを示した。また、力学的な考察から、この現象はフレクソエレクトリシティの効果に起因している可能性があることを見出した。シミュレーションを用いた現象の検討については、当初、原子レベルシミュレーションを用いた解析を行う計画としていたが、スケール的な観点と現象の適合性・再現性の観点から、フェーズフィールドシミュレーションが適していると判断し、解析コードの開発を行った。また、最終年度にメカニカルメモリ素子の分極を測定するために令和3年度に導入する予定であった装置について、半導体や樹脂部品の供給困難により年度内の納入が不可能となる問題が生じたが、次年度への繰り越しの対策を行うことで解決した。研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究を実施する予定である。令和4年度の計画は、“ナノ試験体に対する負荷試験の実施”、“メカニカルメモリ素子に対する力学負荷・分極測定を可能にする試験システムの開発”、“ナノフレクソエレクトリック現象に対するシミュレーション”、“力学理論の整備”である。令和3年度に実施した実験で得られたドメインスイッチング現象がフレクソエレクトリシティの効果に起因したものであることを確定するために、負荷試験手法を新規に開発し、実験を行う。これには、試験片形状の改良と負荷様式の変更を考えている。また、実験から得られた情報から、シミュレーションに必要な係数等を取得する。フェーズフィールド法解析については、引き続き解析コードの整備を行い、試験片形状を考慮した解析を実施できるようにする。実験および解析の結果を基に、ナノフレクソエレクトリシティに関する力学理論について検討を行う。加えて、令和5年度に実施するメカニカルメモリ素子の構造およびその作製方法について、研究計画を前倒しして検討を進める。
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