研究課題/領域番号 |
21H04537
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
井上 忠信 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 分野長 (90354274)
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研究分担者 |
岡 慎一郎 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 上席研究員 (00721747)
原 徹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, ステーション長 (70238161)
中里 浩二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, 主任エンジニア (10469778)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 生物機械工学 / 甲殻類 / 三次元組織解析 / 強靭化組織設計 / 生物模倣技術 / 複合構造 / 異方性 |
研究実績の概要 |
本研究は,甲殻類最強の把持力を持つヤシガニなどの外骨格を対象に,材料工学の最先端の手法を活用して,①組織や構造および主要成分を観察・分析し,②機械的特性試験(硬度,剛性,曲げ強度,靭性)を行い,③3次元有限要素法によるヤシガニが挟む際の数値解析を通じて,堅牢なハサミの組織構造を解明し,生物機械工学の観点で“材料力学および機械材料関連”分野をより発展させることを目的にした研究である. 本年は,複数のヤシガニを捕獲し,様々な部位の表面硬度をその場測定し,データを蓄積した.事前検討として入手していた1,070gのオスのヤシガニを対象に,ハサミなどの外骨格内部の組織および破面を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡SEMで観察し,成分はエネルギー分散型X線分析装置EDSで検出,分析を行った.三次元組織解析では,Xeプラズマタイプの集束イオンビーム―SEM複合装置を用い,組織の3D化に成功した.特性試験では,外骨格を形成している外クチクラexoC,内クチクラendoC,そしてそれらの中間interの層でのビッカース硬さおよびNI試験(P=5 mN)を実施した.exoCではキチン繊維とプロテインの細長い束が,厚さ方向にねじれながら積み重なって1枚の螺旋パターンの薄板を形成し,これらが数百枚積層した合板構造で非常に密に強く石灰化されていた.一方,endoCでは石灰化したマトリックスに数百ナノの細孔が規則的に存在する多孔質構造で有機相が多く存在していた.すなわち,外骨格はマクロでは不均質構造で,ミクロでは各層は規則性のある均質構造となっていた.硬いヤシガニのハサミは250HVの薄い層とそれより1/5倍の硬さと10倍弱厚い多孔質層による「剛」と「柔」の複合構造であり,軽さと強靭さを兼ね備えていた.また,ヤシガニのexoCの耐摩耗性は生物界最強で,かつ高合金鋼並みの耐摩耗性を有することも明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検体の捕獲・入手の計画が予定より遅れ,結果的に5ヶ月の繰越し(2022年8月31日迄)を実施したが,事前に入手していた検体を活用し,組織観察や特性試験を慎重に進めたことで,予定通りに研究は進んでいる.事前検討で研究構想も十分だったため,研究初年度からスムーズに研究に着手できたため,成果を論文で発表することができた.インパクトのある研究成果と評価されたことで,新聞,TV,ラジオ,インターネットなど,複数のメディアで紹介され,研究成果の普及に貢献した.
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今後の研究の推進方策 |
ヤシガニの捕獲・調査を継続して実施し,ヤシガニの部位,体重,表面硬度(デュロメータ硬度計で実施)の関係を取得し,事前検討結果を含めたデータの蓄積を図る.特に,2kg以上の大きなヤシガニの調査を継続し,かつヤシガニ以外の堅牢な外骨格を有する生物の探索を行う.組織観察や局所的な特性試験の経験を活かし,ヤシガニ以外の生物(カニ類,貝類,エビ類など)の組織と硬度を取得し,ヤシガニ外骨格のデータと比較する.また,NI試験で得られる荷重―変位曲線から,局所的なヤング率の情報を取得し,有限要素解析の材料データの蓄積を図る.外骨格のバルク特性である引張試験を見据え,外骨格から小型試験片を抽出することを開始する.
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