研究課題/領域番号 |
21H04540
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
津島 将司 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30323794)
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研究分担者 |
鈴木 崇弘 大阪大学, 工学研究科, 講師 (90711630)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 二次電池 / 不可逆損失 / 数理最適化 / ナノマイクロ構造制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,燃料電池や二次電池などの「電気化学反応輸送場」において「不可逆損失を最小化」するための学理を構築し,実デバイスにおいて実践することを目指している.特に,①「電気化学反応輸送場」を構成する物質が与えられた時に,それらの時空間構造により実現できる不可逆損失の最小値はいくらか,②不可逆損失を最小化する「電気化学反応輸送場」の時空間構造はどのようなものか,③不可逆損失を最小化する「電気化学反応輸送場」の物質の時空間構造は,どのようなプロセス(製造工程)により実現できるのか,を明らかにするために,「エントロピー生成最小化」に着目して理論解の構築を行い,並行して数理計算科学による数値解にもとづく局所エントロピー生成率の時空間分布についての考察を行う.さらに,固体高分子形燃料電池とレドックスフロー電池を対象として,電池材料からセル構造まで統合的に扱い「エントロピー生成最小化」を実践することを目的としている.本年度は,化学反応と拡散輸送を伴う「多孔質反応輸送場」を対象として,「不可逆損失を最小化」する局所空隙率の空間分布について理論的な検討を行った.非平衡熱力学における「均等分割の原理」にもとづく「エントロピー生成最小化」を指導原理として,1次元局所空隙率の支配方程式を導出した.あわせて,数理計算科学的なアプローチとして,同様の「多孔質反応輸送場」を対象として「反応量を最大化」する局所空隙率について,3次元までの空間分布を許容した解析を実施した.その上で,局所エントロピー生成率およびその積分量の空間分布を算出し,考察を加えた.「電気化学反応輸送場」を伴う実デバイスを対象とした不可逆損失最小化の実践として,固体高分子形燃料電池ならびにレドックスフロー電池の多孔質電極構造と構成材料について,電池内部における輸送現象解析を含めた研究開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では研究開発項目として,(1)「電気化学反応輸送場」における「不可逆損失の最小化」の理論的解明,(2)「電気化学反応輸送場」における「不可逆損失の最小化」の数理計算科学的解明,(3)「電気化学反応輸送場」における「不可逆損失の最小化」の実験科学的解明,を推進することとしている.現在までに,化学反応と拡散輸送を伴う「多孔質反応輸送場」を対象として,「不可逆損失を最小化」する局所空隙率の空間分布について,「エントロピー生成における均等分割の原理」を適用することで反応物分布を算出し,局所空隙率に関する支配方程式を導き,理論解析のための基盤を構築した.あわせて,「多孔質反応輸送場」における「反応量を最大化」する問題について,随伴変数法を用いて数値解析する手法を構築した.これにより,数値最適解としての局所空隙率の3次元分布を算出し,その際の局所エントロピー生成率およびその積分量の空間分布を解析することが可能となった.実デバイスにおける実践においては,固体高分子形燃料電池ならびにレドックスフロー電池の多孔質電極内輸送現象の解明にもとづく支配因子の抽出を進め,電極構造の構築ならびに新規材料についての研究開発を推進した.これまでに,電極構造と輸送物性の関係,ならびに,新たな電極構造を構築するための知見が得られている.これらの成果は本研究で目的とする,「電気化学反応輸送場」における「不可逆損失を最小化」するための学理の構築と実デバイスにおける実践の基盤となるものであり,研究開発は順調に推移しているものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
二年度においては,それぞれ次の研究開発を推進する. ①非平衡熱力学における「均等分割の原理」にもとづく「エントロピー生成最小化」の「多孔質反応輸送場」への適用:化学反応と輸送現象を伴う「多孔質反応輸送場」を対象として,「不可逆損失を最小化」する局所空隙率の空間分布について理論的な導出を行う.非平衡熱力学における「均等分割の原理」にもとづく「エントロピー生成最小化」に着目した考察を進め,「電気化学反応場」における「エントロピー生成最小化」に拡張するための検討を行う. ②「反応輸送場」における反応輸送物性の空間分布形成による「不可逆損失最小化」の数理計算科学による検証:初年度に構築した単一成分化学反応と拡散輸送による「多孔質反応輸送場」における「反応量の最大化」の数理解析手法について,最適解への時間発展に伴う局所エントロピー生成の素過程と空間分布に着目した解析を進め,「多孔質反応輸送場」の「不可逆損失の最小化」との関係について考察を行う.加えて,「多孔質反応輸送場」の反応輸送物性が局所空隙分布の最適解ならびに反応量とエントロピー生成に及ぼす影響について考察を行う.「電気化学反応輸送場」への拡張と「追加次元」の効果を検証・解析する手法について検討を行う. ③実デバイスを対象とした時空間構造を制御した「電気化学反応輸送場」の構築と不可逆損失最小化の実践:固体高分子形燃料電池ならびにレドックスフロー電池を対象として,時空間構造を制御した「電気化学反応輸送場」を構築するための研究開発を実施する.多孔質電極における反応輸送流束を促進する空間構造および時間構造の導入についての検討を行う.その際,電気化学反応およびイオン輸送に伴う不可逆損失を最小化するための電極材料ならびに電解質材料の研究開発をあわせて推進する.
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