研究課題/領域番号 |
21H04544
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川嶋 健嗣 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (40300553)
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研究分担者 |
川瀬 利弘 東京電機大学, 工学部, 准教授 (40633904)
宮嵜 哲郎 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 講師 (60734481)
曽我部 舞奈 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (80788951)
只野 耕太郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (90523663)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 流体駆動ロボット / 物理システムの計算による状態推定 / ロバスト制御 / 空気圧ゴム人工筋 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,流体駆動ロボットにおいて,各アクチュエータへ作動流体を伝達する配管群と供給圧力源をネットワーク化することで,模擬的な血管系を構成し,模擬血管系から推定した情報と従来の神経系に相当するセンサ情報の双方を活用したロバストな制御方法を提案することにある.本制御方法をロボットに実装し,省エネルギー駆動の実現とともに耐環境性に優れ,かつ動作支援ロボットにおける歩行から走行などの大きな動作変化にも柔軟な対応の実現を目指す. 研究3年目として,流体駆動ロボットである空気圧駆動ソフトロボットにおいて,主に下記の項目を実施した. 第一の目標であるソフトロボットの状態推定では,昨年実施した空気圧ゴム人工筋を用いた歩行アシスト装置における歩行状態をクラスタリング手法によって分類する方法において,計算時間と推定精度のバランスが良いアルゴリズムを検討した.空気圧ゴム人工筋を用いた歩行アシスト装置に実装し,リアルタイムに状態推定と制御が同時に実現できることを明らかにした. また,空気圧ゴム人工筋を用いた歩行アシスト装置における,圧力情報から角度などの装着者の状態推定を行う空気圧リザバー計算の性能について検討を行った.配管と容量からなるモデルにおけるシミュレーションを行い,出力の圧力を配管の途中にフィードバックすることで,リミットサイクルを生成できることを明らかにした.これは歩行などの周期運動の状態推定に有効であることを示している.さらに,歩行アシストロボットに加え,空気圧ゴム人工筋で上腕をアシストするロボットを試作し,視覚提示と合わせた運動教示システムを提案開発した.被験者実験によって,開発したシステムが,従来の視覚のみあるいは視覚と振動提示デバイスの併用システムと比較して,運動教示の性能が高いことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標は,空気リザバー計算のさらなる精度向上と推定情報の拡張とリアルタイムの推定状態を用いた,より効果的で省エネルギーを実現するアシスト制御方法の提案と,実証実験の実施であった. 第一の目標に対し,空気圧ゴム人工筋と接続配管で構成される空気リザバー計算において,圧力情報を配管内にフィードバックすることでより複雑な現象を生成した.これによって,リミットサイクルが生じることを確認し,計算精度が向上することを示した.この研究成果はロボット系で最も権威のある国際学会IEEE ICRAに採択され発表を行った(国際会議1). 第二の目標に対しては,人間の歩行状態をモデル化,空気圧ゴム人工筋の内圧から分類分けする方法を提案し,目標トルクを計算した.この値を用いて空気圧ゴム人工筋を用いた歩行アシスト装置のトルク追従制御方法を提案した.その成果は英語論文として発表した(投稿論文1).これによって,これまでの空気圧ゴム人工筋へのステップ的でアシスト率が不均一な入力に対して,滑らかな入力を実現し,アシスト率を一定にできる制御を実現するとともに,省エネルギー駆動の実現を可能とした. また,歩行アシストロボットに加え,空気圧ゴム人工筋で上腕をアシストするロボットを試作し,視覚提示と合わせた運動教示システムを提案開発した.複数名の被験者実験によって,歩行と上腕の屈曲運動に対して,従来の視覚のみあるいは視覚と振動提示デバイスの併用システムと比較して,提案システムにおいて運動教示の性能が高いことを示した(国際会議2,3).さらに,空気圧ゴム人工筋などの空気圧駆動においては,配管での圧縮空気の供給,供給源のコンプレッサーが必要となるが,環境の熱で低沸点の液体を気化させるソフトアクチュエータを提案し,その駆動を実験で確認した(投稿論文2) 以上,ほぼ予定通りに研究を進捗し,成果発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度として,血管系を模倣した配管ネットワークの物理システムによる計算(空気リザバー計算)において,ハードソフト両面からの改善に取り組み,実システムでの状態推定の有効性を示す.ソフト面の改善として,物理リザバー計算において線形と非線形計算の組み合わせが有効であることが示されている.そこで,第一にソフト面として,測定したデータを単に線形回帰に用いるのではなく,過去のデータから現在のデータを推定するアルゴリズムを付与して,それも含めた回帰分析を行う方法を提案し,精度向上の実現を目指す.次に,測定した圧力データの解析において,歩行状態によって線形と非線形のエコーステートネットワークの重みを可変にする方法を提案する. ハード面としては,昨年度の結果より圧力情報を空気リザバー計算にフィードバックすることの有効性を確認したことから,そのような配管構造を検討する.さらに,これまで状態推定用の空気圧ゴム人工筋とアシスト用の空気圧ゴム人工筋の双方を装着していたが,より簡便なシステムとしてアシスト用の空気圧ゴム人工筋の圧力変化を状態推定用のリザバー計算にも用いる方法に挑戦する.空気圧ゴム人工筋を用いた歩行アシスト装置に上記の空気リザバー計算を実装し,その有効性を明らかにする.具体的には,歩行状態として歩行速度を変えた場合,坂道を歩行させた場合や負荷を背負った状態での歩行など,複数の状態において被験者実験を実施し,それらの状態を推定できることを示す予定である. さらに,従来の配管とコンプレッサーを必要とする空気圧ゴム人工筋に変わり,昨年度に提案試作したシリコンゴムに低沸点液体を封入し,環境からの熱の照射によって駆動するソフトアクチュエータにおいて,空気リザバー計算としての活用を検討する.これらの成果を企業への技術移転を計っていくとともに,次の研究課題で役立てる.
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