研究実績の概要 |
最終年度の令和5年度には以下の研究を行った。
シリコンスピントランジスタにはシリコンスピンチャネルとゲート絶縁膜であるSiO2との間にRashba場(有効電場)が存在し、そのRashba場に起因してシリコン中を運動するスピンに有効磁場がかかることが我々のこれまでの研究(S. Lee, M. Shiraishi et al., Nature Materials 2021)から明らかとなっている。この有効磁場は直接的に伝導スピンに作用しスピン情報を意図しない形で操作してしまうため、スピントランジスタ動作で重要なスピンドリフト速度やスピン移動度の見積もりに誤差を与える。本研究ではRashba場をゲート電界によって消した状態で正確なスピンドリフト速度とスピン移動度の見積もり手法を確立し、非縮退シリコンにおけるこれかの物性値を正確に見積もった(H. Inoue, M. Shiraishi et al., PRB2023)。
遂行したもう1つの研究は高周波印加下におけるシリコンスピントランジスタ動作とその周波数依存性に関する定性的評価である。現時点ではシリコンスピントランジスタはDC電流印加条件で動作させているが、将来的には同素子のAC(高周波)動作も考える必要がある。そこで周波数を100kHz程度まで変化させてその条件の下でスピン信号がどのように変化するかを明らかにした。一方、スピン信号の変化はスピントランジスタや測定回路に内在するキャパシタンス成分によって主に変調されていることもわかり、定量的評価の実現に向けて、これら不要なキャパシタンス成分を除去していくことが重要であることを明らかにした。
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