SiC(炭化珪素)は優れた物性を有する広禁制帯幅半導体であり、現行のSi半導体の材料限界を桁違いに打破する高耐電圧・低損失トランジスタや、厳環境で安定に動作する集積回路を実現できる。本研究では、代表者が提案する独自手法により形成したSiC MOS界面を用いて、高性能トランジスタの実証を目指した。得られた具体的な成果は以下の通りである。 (1) SiCの酸化を徹底的に排除して形成した高品質SiC/SiO2界面(MOS界面)の伝導帯端近傍の界面準位密度を独自の容量-電圧(C-V)特性解析法により精密に評価した。この結果、新規手法では、従来技術(熱酸化とNOガス処理)に比べて界面準位密度を1/2~1/5に低減できていることを明らかにした。また、この高品質MOS界面を得るためには、酸化膜形成前に高温(1300℃)での水素ガス処理が有効であることを見出した。 (2) 上記の独自手法により形成したゲート酸化膜を有するSiCのnチャネルMOSFET(MOS界面を利用したトランジスタ)を作製し、特性を評価した。作製したMOSFETは良好な特性を示し、従来手法で作製したSiC MOSFETに比べて2倍という高いチャネル移動度(80 cm2/Vs)を得た。また、新規手法で作製したMOSFETのサブスレッショルド特性は非常に急峻であり、MOS界面における低い界面準位密度を反映している。 (3) 新規手法により形成した酸化膜(SiO2膜)の絶縁性を評価したところ、酸化膜電界が約5 MV/cmまではほとんどリーク電流が観測されず、11 MV/cm以上という非常に高い絶縁破壊電界を得た。このように、独自手法により形成したSiC MOS構造は非常に高品質であり、将来のSiC MOSデバイスの高性能化に大きく貢献すると考えられる。
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