研究課題/領域番号 |
21H04564
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
内藤 裕義 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 特任教授 (90172254)
|
研究分担者 |
麻田 俊雄 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10285314)
小林 隆史 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10342784)
池田 浩 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30211717)
八木 繁幸 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (40275277)
小関 史朗 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (80252328)
松井 康哲 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90709586)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
|
キーワード | 機械学習 / 量子化学計算 / デバイスシミュレーション / 燐光発光材料 / 熱活性化遅延蛍光材料 / マイクロフローリアクター / 逆構造有機発光ダイオード / 高速インピーダンス分光系 |
研究実績の概要 |
1)熱活性化遅延蛍光(TADF)モデル分子(o-, m-, and p-CzBN)、安達らの分子(2CzPN, 4CzPN, 4CzIPN, 4CzTPN)の基底状態,最低三重項状態(T1)および最低励起一重項状態(S1)の安定構造を探索し決定した。2)発光スペクトルの強度および(逆)項間交差の速度定数の計算のための理論式を導出し、速度定数を決定した。3)機械学習により、目的とする正孔移動度を示す新規な有機分子を設計できる自動分子設計システムの構築に成功した。4)アクセプター部位に対してより弱いドナーを導入したTADF材料の合成の検討を行った。また,固体での蛍光量子収率を向上させるための置換基の導入の検討や、S1やT1のエネルギー準位を制御するための分子設計指針を検討した。5)りん光材料を用いた溶液塗布型有機発光ダイオード(OLED)に適した発光層ホストポリマーの開発を目的として、高いT1を有するアクリレート官能基化カルバゾール系有機半導体を立体障害の小さなカルバゾール系コモノマーと共重合させることでポリマー主鎖の伸長に成功した。6)2-フェニルキノキサリン配位子を有する近赤外りん光性ビスシクロメタル化イリジウム錯体について、フェニル基上への置換基の導入によって容易に発光波長を長波長化させることに成功した。7)溶液塗布型OLEDに適したりん光材料の開発を目的として、赤色りん光性ビスシクロメタル化イリジウム錯体の補助配位子が発光量子収率に及ぼす効果について検討した。8)アモルファス有機半導体の電子物性予測法を確立した。9)反実仮想的機械学習によるOLED設計手法を提案した。10)time stretched pulse(TSP)を用いた高速インピーダンス分光においてTSPを最適化し測定周波数域でほぼ一定の信号対雑音比を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記の代表的成果を上げ、ほぼ研究計画通りの成果が得られている。 1)モデル分子について、発光スペクトルへの寄与の大きな基準振動モードを数個用いた計算を実行し、スペクトル形状を予測した。モデル分子について、すべての基準振動モードに対して調和振動子近似を用いて、S1-T1遷移の項間交差の遷移速度定数を見積もった。安達らの合成した一部の分子の励起状態の安定構造を求めた。2)ランダムフォレスト (RF) による機械学習を行い、高速に正孔移動度を予測できるモデルを構築した。これにより目的の正孔移動度を示す分子の自動設計システムを構築した。3)カルバゾール以外にも弱いドナーであるメチルイミダゾール基を導入することで短波長の発光が得られることを明らかにし、より弱いドナーの選定を行い、それらの導入の実験を行った。フタルイミド等が導入できることを示し、これらの置換位置や置換数を制御した誘導体の合成を検討した。4)アクリレート官能基化カルバゾール系有機半導体のホモポリマーを合成したところ、立体障害によりポリマー主鎖が伸長しないことがわかった。立体障害の小さなカルバゾール系コモノマーと共重合させることによって、重合反応は進行し、ホモポリマー重合時よりも重合度の大きなポリマーを得ることに成功した。2-フェニルキノキサリン配位子を有するビスシクロメタル化イリジウム錯体のフェニル基上にアルキル基を導入することによって発光波長の顕著な長波長化が認められ、アルキル基の数や導入位置を調節することで発光ピークが750 nmを超えるりん光を得ることに成功した。5)半導体性を示す有機分子の凝集構造を構成し、アモルファス有機半導体の電子物性(移動度、局在準位密度分布、有効状態密度等)が予測できることを示した。反実仮想的機械学習により目的の内部量子効率を有するOLED設計手法を提案した。
|
今後の研究の推進方策 |
1)すべての基準振動モードを明瞭に考慮した発光スペクトルの計算には、膨大な時間が必要であることが明らかになったため、できるだけ多くの基準振動モードを用いた計算を高速に実行するために、並列計算用プログラムを作成する。(逆)項間交差の速度定数を求めるためには、T1状態におけるpromoting modeに対して、調和振動子近似ではなく、double-well potentialを仮定する必要があり、これを取り入れた計算を行う。2)実験値が報告されている正孔輸送剤を用いて、正孔移動度を示す分子の自動設計システムの妥当性を示すと同時に、ゲスト―ホスト系でも有用であることを示す。3)引き続き、より弱いドナーを導入したTADF材料の合成の検討を行う。また、TADFの発現にはアクセプター部位の局所励起T1状態のエネルギー準位制御も重要であるため、T1準位の制御された材料系の探索を行う。4)有機半導体ポリマーについては、デバイス化によって発光層ホストポリマーの有用性を評価する。近赤外りん光性イリジウム錯体を発光ドーパントとして用いたOLEDを作製し、高効率近赤外OLEDの創出について検討する。ジベンゾイルメタナート系補助配位子にアルコキシ基を導入した赤色りん光性ビスシクロメタル化イリジウム錯体について、ポリマーマトリックス中における凝集の要因について検討し、強発光赤色りん光材料の分子設計指針を確立する。5)新規に合成したホストマトリクス、りん光、TADF材料を用いたOLEDを作製する。作製に際してはすでに開発してきた機械学習等を用いた設計手法を用いる。フレキシブルOLEDの作製も行うと同時にOLEDの電子物性評価において高速インピーダンス分光系の有用性を実証する。最終的に有機アモルファス半導体の光・電子物性予測法を確立すると同時にその成果をOLED設計に活かす。
|