研究課題/領域番号 |
21H04565
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
能崎 幸雄 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30304760)
|
研究分担者 |
松尾 衛 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 客員研究員 (80581090)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
|
キーワード | スピン流 / スピン渦度結合 / 表面弾性波 / スピン波 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、薄膜試料の磁気から音波を生み出す逆変換を実証し、デバイス化に不可欠な磁気と音波の双方向変換を実現することである。 本年度は、磁気回転効果由来の音波の振幅・位相シフトの高S/N測定を実現するため、まず測定装置の立ち上げを行った。具体的には、産総研の田丸らが開発した干渉FMR測定法を参考に、直流磁場発生電磁石と微弱な交流磁場発生用ヘルムホルツコイルを組み合わせ、磁場発生部にマイクロ波プローブ針を備えた全天回転型試料ホルダーを配置させた装置を作製した。本装置の性能を評価するため、ベクトルネットワークアナライザを用いた音波由来スピン波の検出実験を行ったところ、交流磁場変調を行わない従来法よりも高いS/N比でスピン波の振幅と位相を測定できることを確かめた。 次に、強磁性NiFe薄膜中を伝搬する音波の強度と位相シフトを測定することにより、音波に含まれる格子回転運動と磁気(電子のスピン角運動量)の間の角運動量変換の効率について調べた。この測定系では、格子回転運動から電子スピンへの角運動量変換と同時に、その逆変換も生じる可能性があり、これが音波の強度と位相シフトの変化として現れる。そこで、順方向と逆方向の角運動量変換に伴うこれらの変化を定量化するために必要な計算モデルを構築することにより、角運動量変換の相反性について調べた。その結果、測定された音波の位相シフト量と、順方向・逆方向の角運動量変換が完全に相反的であると仮定して計算した位相シフト量がよく一致することが分かった。この結果は、強磁性体の磁化から格子回転運動を生み出せる、つまり本研究の目的である「薄膜試料の磁気から音波を生み出す逆変換が実現できる」ことを示唆する重要な知見である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、「磁気子回転効果由来の音波の振幅・位相シフト測定の高S/N化(R3年度)」を完了し、「音波の強度・位相シフト測定による角運動量逆変換の定量評価(R3-R4年度)」についても薄膜試料の磁気から音波(格子回転運動)への変換実現をサポートする重要な結果を得ている。さらに、研究分担者の松尾も磁性体と非磁性体における微視系と巨視系の角運動量変換に関する理論モデルの構築(R3-R5年度)に着手しており、音波と磁気の双方向変換の定量解析を可能にした。このように、実験・理論モデル構築とも計画通り順調に進捗していると評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に記載の通り、実験・理論構築とも当初計画通り進んでおり、これまでに得られた結果についても研究代表者が当初計画の予想通りのものが得られている。したがって、R4年度も当初計画通り「音波の強度・位相シフト測定による角運動量逆変換の定量評価」、「磁気回転効果による弾性体の弾性係数変調の評価」、および「微視系と巨視系の角運動量変換に関する理論モデルの構築」の3つの研究テーマを実施し、最終年度に行う「スピン流・スピン波による音波の位相シフト最大化と音波生成の実証」に向けた知見を得る。
|