研究課題/領域番号 |
21H04570
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐野 大輔 東北大学, 工学研究科, 教授 (80550368)
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研究分担者 |
片山 浩之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00302779)
片山 和彦 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (60342903)
北島 正章 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30777967)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 水の消毒 / ウイルス / 消毒耐性メカニズム / 下水処理水 |
研究実績の概要 |
研究初年度である令和3年度においては、世界中で水の消毒に使用されている塩素消毒について、感受性の異なるロタウイルス集団を計40集団取得し、塩素消毒実験結果をもとに、17の低感受性(高抵抗性)集団、及び23の高感受性(低抵抗性)集団に分割した。これらのロタウイルス集団に対して次世代シーケンシングによる全ゲノム解析を行ったところ、低感受性集団に特徴的な遺伝子変異は存在しないことが明らかとなった。そこで低感受性集団と高感受性集団の間で遺伝的多様性を比較したところ、外殻タンパク質VP7のアミノ酸配列において、低感受性集団の方が高感受性集団よりも有意に多様性が高いことが判明した。遺伝的多様性が高い場合に集団内で粒子間の凝集が生じやすくなり、それが消毒耐性をもたらすとの仮説を立て、進化シミュレーションにより再現を試みたところ、凝集しやすい集団ほど、消毒耐性がランダムに変動しつつ遺伝的多様性が高く保たれることが明らかとなった。この結果から、代表的な胃腸炎ウイルスであるロタウイルスに関しては、遺伝的多様性自体が集団として消毒剤への低感受性を示す理由であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水中ウイルスの消毒耐性メカニズムを解明することを目的とする本研究では、作業仮説として、「特定の変異遺伝子がウイルス集団の消毒耐性をもたらす」、及び「ウイルス集団の消毒耐性は遺伝的多様性により決定される」の2つを設定し、その検証を試みている。研究初年度である令和3年度においては、この2つの仮説のうち「ウイルス集団の消毒耐性は遺伝的多様性により決定される」について、代表的な胃腸炎ウイルスであるロタウイルスに対しては成立しうることを実験及び進化シミュレーションにより示すことに成功した。この成果は世界初のものであり、当初想定を上回る成果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
ロタウイルスに関する上記成果の科学雑誌上での出版を目指すと同時に、ロタウイルス以外のウイルスに関しても上記仮説のうちどちらが成立するかを確認するための実験に取り組む。ロタウイルス以外のウイルスとしては、新型コロナウイルスと同じエンベロープウイルスとしてPseudomonasファージphi6、非エンベロープウイルスとしてマウスノロウイルス(murine norovirus:MNV)を用いる。ロタウイルスに関して成立していた「ウイルス集団の消毒耐性は遺伝的多様性により決定される」について、phi6及びMNVにおいても成立するかどうかを確認するために、実験室でウイルスを培養する際、培地に5-fluorouracilを添加することで遺伝子変異を促進する。5-fluorouracilは、薬剤耐性ポリオウイルス株の分離に関する研究における遺伝子変異促進などの実績がある。培地中の5-fluorouracil濃度は対照を含めて3段階設定し、遺伝的多様性の異なる3つの集団をウイルスごとに準備する(5-fluorouracil濃度は組織細胞への毒性を確認して濃度を決定する)。準備されたウイルス集団の遺伝的多様性を評価するために、NGSによる遺伝子配列解析を行う。
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