研究課題/領域番号 |
21H04597
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢守 克也 京都大学, 防災研究所, 教授 (80231679)
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研究分担者 |
竹之内 健介 香川大学, 創造工学部, 准教授 (00802604)
大西 正光 京都大学, 防災研究所, 准教授 (10402968)
及川 康 東洋大学, 理工学部, 教授 (70334696)
佐山 敬洋 京都大学, 防災研究所, 准教授 (70402930)
本間 基寛 一般財団法人日本気象協会, 担当部長 (80643212)
山口 弘誠 京都大学, 防災研究所, 准教授 (90551383)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 豪雨災害 / 潜在性 / ポテンシャル事例 / アンサンブル予測 / 災害情報 |
研究実績の概要 |
本研究は、起こらなかった豪雨災害、つまり、潜在的には十分に起こりうる可能性があったものの、結果として起こらなかった豪雨災害事例に注目することで、これまでにない防災情報を生みだし、それを社会実装することを目指す研究である。本研究では、発生事例の回顧的検証という従来の研究スタイルを抜本的に刷新し、「ポテンシャル事例」(潜在的災害事例)を基幹概念とする新しいパラダイムを提案しようとしている。具体的には、まず、アンサンブル予測の手法を過去の事例に対してバックワードに適用し、「ポテンシャル事例」を同定し、次に、「ポテンシャル事例」に基づく新しいタイプの防災情報を考案し、さらに、それを将来の災害に対するフォーワードな防災情報として社会実装することを試みた。 具体的には、近年発生した災害事例、すなわち、西日本豪雨(2018年)、台風19号災害(2019年)などにおいて大きな被害を実際に出した地域、および、上記を含む近年の複数の豪雨災害において大きな被害が受けた福知山市などをテストフィールドとして設定した上で、以下の5つの研究群と役割分担によって、「ポテンシャル事例」の客観的同定手法の開発と、その成果を活用した新たな豪雨災害リスクのコミュニケーション手法の開発と社会実装を試みた。 研究1は、降雨量のアンサンブル予測に基づく「ポテンシャル事例」の同定、研究2は、河川流出・氾濫のアンサンブル予測に基づく「ポテンシャル事例」の同定、研究3は、犠牲者数のアンサンブル予測に基く「ポテンシャル事例」の同定、研究4は、「ポテンシャル事例」に関するワークショップと住民意識調査の実施、研究5は、「ポテンシャル事例」を活用した豪雨リスク・コミュニケーション手法の開発とテストフィールドにおける実装である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した5つの個別研究のうち、研究1(降雨量のアンサンブル予測に基づく「ポテンシャル事例」の同定)については、上記の災害において現実化した降雨シナリオに対してアンサンブル予測をバックワードに適用し、現実化しなかったものの十分発生する可能性があった降雨シナリオを同定する手法について開発が進み、研究2(河川流出・氾濫のアンサンブル予測に基づく「ポテンシャル事例」の同定)については、西日本豪雨、東日本台風について、広域の分布型水文モデルを用いて洪水流出および河川氾濫の潜在性(可能性)とその規模について推定する手法を提案し、研究3(犠牲者数のアンサンブル予測に基く「ポテンシャル事例」の同定)についても、研究1で同定された降雨シナリオやその他の手法にもとづいて、実際には幸い生じなかったものの十分に生じえた人的被害 の規模とその発生予想地域を予測するための手法を提案し、研究4(「ポテンシャル事例」に関するワークショップと住民意識調査の実施)についても、この点に関する大規模ネット調査を実施し、その結果をとりまとめ済みである。ただし、研究5(「ポテンシャル事例」を活用した豪雨リスク・コミュニケーション手法の開発とテストフィールドにおける実装)については、コロナ禍の影響により、対面でのワークショップ開催頻度が当初予定はよりは若干遅れている。そのため、全体としては、「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗評価に基づき、上述した5つの個別研究のうち、研究1、研究2、研究3、研究4については、これまでの成果に基づき、現行のまま研究を継続・推進することで、十分研究成果が得られるものと考えている。他方で、研究5(「ポテンシャル事例」を活用した豪雨リスク・コミュニケーション手法の開発とテストフィールドにおける実装)については、コロナ禍の影響による進捗の遅れを回復させるために、新たに、2つの方策を講じる予定である(一部はすでに講じている)。第1は、テストフィールド(福知山市)に、災害ポテンシャルを評価可能なローカルな測定機器(浸水計、傾斜計など)を設置し、それらをローカルな避難情報として活用するための仕組みの構築とその評価に関する研究である。第2は、オープンデータ(具体的には、国土交通省の水文水質データベース)を活用して、過去の河川データ(水位データ)を基に、災害ポテンシャルを評価するための手法の開発である。
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