研究課題/領域番号 |
21H04603
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
成島 尚之 東北大学, 工学研究科, 教授 (20198394)
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研究分担者 |
佐原 亮二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (30323075)
小笠原 康悦 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (30323603)
上田 恭介 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40507901)
金高 弘恭 東北大学, 歯学研究科, 教授 (50292222)
伊藤 甲雄 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (90609497)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 抗ウイルス / スパイクタンパク質 / 酸化チタン / 光触媒 / チタン / 抗菌 / 第一原理計算 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
令和3年度は以下の3項目に関して研究を遂行した。 (a)計算材料学的手法によるTiO2のバンドギャップの精密評価方法の確立:密度汎関数法を用いた平面波-擬ポテンシャル法電子状態計算プログラムVASPにより炭素・窒素を添加したアナターゼ型TiO2の熱力学的安定性を評価した。TiO2中の炭素・窒素の安定な存在状態(化学状態)は雰囲気の酸素ポテンシャルに依存することを明らかにした。全電子混合基底法を基礎とした第一原理計算プログラムTOMBOにより、炭素・窒素の安定な存在状態におけるアナターゼ型TiO2のバンドギャップを評価した。(イ)10^-20 atm程度の酸素分圧下で安定な炭素・窒素がTiO2のバンドギャップエネルギーの低下に寄与する、(ロ)炭素および窒素の共添加がTiO2のバンドギャップエネルギーの低下に有効、であることが分かった。 (b)二段階熱酸化法による窒素添加TiO2膜の抗菌特性評価:二段階熱酸化法によりチタン基板上に作製した炭素・窒素添加TiO2膜の可視光照射下における抗菌性を評価した。菌種としては大腸菌を用いた。15分という短時間可視光照射でも抗菌活性値1(90%の菌が死滅)が得られた。ECR(電子スピン共鳴)法により可視光照射下でのラジカル発生を確認した。抗菌能評価結果を抗ウイルス特性発現のスクリーニングとして用いる。 (c)スパイクタンパク質を有する融合タンパク質定量方法の確立:ELISA(酵素結合免疫吸着測定)法を用いることで融合タンパク質の定量分析手法を確立した。一次抗体の種類や溶液の適切な選択、融合タンパク質の回収方法の最適化を図ることが必要であった。確立した手法を応用することでTiO2膜の光触媒活性に伴うスパイクタンパク質不活化評価実験を行う体制が構築された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示した3項目について進捗状況を自己点検する。 (a)計算材料学的手法によるTiO2のバンドギャップの精密評価方法の確立:VASTとTOMBOを用いることで元素添加TiO2の精密なバンドギャップ評価手法を確立できた。TOMBOの開発グループに所属する佐原(NIMS)が研究分担者として参画していることもあり、計算アルゴリズムを検討することで計算速度を向上させるなどのプログラムそのものの機能向上にも寄与した。以上より、本項目に関しては「当初の計画以上に進展している」と評価できる。 (b)二段階熱酸化法による窒素添加TiO2膜の抗菌特性評価:15分という短時間可視光照射でも抗菌活性値1(90%の菌が死滅)を示すTiO2膜の作製プロセスの構築に成功した。抗ウイルス性評価に用いるTiO2膜の見通しを立てることができた。一方、現時点で、可視光応答化の機構解明がなされていない。以上より、本項目に関しては「概ね順調に進展している」と評価できる。 (c)スパイクタンパク質を有する融合タンパク質定量方法の確立:融合タンパク質の定量分析手法を確立できたことは大きな収穫である。ELISAでの分析条件の最適化に時間がかかり、TiO2膜上での融合タンパク質の回収・分析法の確立にまで研究が進行しなかった。このため、本項目に関しては「やや遅れている」と評価せざるを得ない。 以上の自己点検の結果を総合して「概ね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度はスパイクタンパク質を有する融合タンパク質のTiO2上での定量方法を確立することが最優先の研究事項となる。令和3年度の予備実験の結果から、ELISA法における融合タンパク質を保持する溶媒、添加物、保持時間などの条件を変化させることで、TiO2表面に播種した融合タンパク質の回収方法を確立することができるとの見通しを持っている。回収方法が確立されれば、光触媒活性に伴う融合タンパク質不活化挙動を把握することが可能になる。TiO2表面からの即時回収、暗所静置、光照射の3条件での融合タンパク質を定量分析する。まずは、紫外光での不活化状況を調査した後、可視光での検討を行う。令和3年度の遅れを取り戻したいと考えている。 「計算材料学的手法によるTiO2膜の高機能化の検討」では、VASPとTOMBOにより軽元素含有アナターゼ型およびルチル型TiO2のバンド構造を評価し、可視光応答性に及ぼす元素添加の影響を解明する。特に酸素ポテンシャルの影響に着目し、可視光応答性に優れるTiO2膜作製プロセスへのフィードバックを行う。計算による知見を背景として、スパッタリング法による炭素および窒素添加TiO2膜の作製と抗菌能評価を行う。TiO2膜作製プロセスとしては反応性スパッタリング法を選択し、炭素と窒素の共添加を図る。計算では10^-20 atm程度の酸素分圧下で安定な炭素・窒素がTiO2のバンドギャップエネルギーの低下に寄与することが示唆されているので、反応性スパッタリングというチタンの酸化プロセスに基礎をおいた手法は可視光応答化に有効と予想している。
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