研究課題/領域番号 |
21H04606
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉見 享祐 東北大学, 工学研究科, 教授 (80230803)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | モリブデン / チタン / シリコン / 耐酸化性 / 固溶体 / チタンシリサイド |
研究実績の概要 |
2021年度は, Mo-Ti二元系合金の急冷凝固ガスアトマイズ粉末の作製と放電プラズマ焼結法による焼結体の作製を目的として,Mo-Ti二元系合金,およびこれにSiを添加した合金をアーク溶解法で作製し,平衡相の確認や溶解合金の酸化挙動を調査した。実施内容は,まず,Mo:Ti = 1:1であるMo50Ti50合金と,これにSiを1 - 3 at%添加した合金,すなわち(Mo50Ti50)100-xSix (x = 0, 1, 2, 3),さらにMo45Ti52Si3合金をアーク溶解法で作製し,これらに対して1500°C,100時間で平衡化のための熱処理をした。上記Mo-Ti合金では,Siを添加することで凝固時にTi5Si3が生成した。熱処理後,Si添加量が2 at%以下の合金はいずれもBCC固溶体の単相となった一方,3at%添加した合金はいずれもBCC固溶体とTi5Si3の二相となった。このことから,Mo-Ti合金のSiの固溶限は2 at%以下であることがわかった。これら合金に対して,溶解したままの試料と熱処理後の試料双方に対して800°Cにて,ArガスとO2ガスの各流量が79 mL/minと21 mL/minとなる混合ガス流の雰囲気下で等温酸化試験を行った。その結果,合金中のSi量が増加するにしたがって酸化重量変化が低下し,耐酸化性が改善されることがわかった。とりわけ,熱処理後のMo45Ti52Si3合金は最も優れた耐酸化性を示し,24時間後の重量変化量は5 mg/cm3程度と微量であった。このことは,酸化試験後の試料の断面観察による酸化皮膜厚さの測定結果からも明らかであった。耐酸化性改善の原因として,酸化皮膜が良好なTiO2とSiO2の層状構造を形成することに由来するものと考えられ,その形成メカニズムの検討が課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mo-Ti二元系合金の急冷凝固ガスアトマイズ粉末の作製については,まだ着手していない。これは,Mo-Ti合金に対してSiの少量添加が耐酸化性改善に効果的であることを事前の予備調査で見出したため,2021年度はMo-Ti-Si合金を,計画を前倒しで調査対象に含めたためである。一方,第1世代モシブチック合金と呼ばれるMo65Si5B10Ti10C10合金を使って,電極誘導溶融ガスアトマイズ(EIGA)法による急冷凝固粉末の作製と,その粉末を使った放電プラズマ焼結(SPS)の詳細な技術検討を進めた。EIGA法の実施には誘導加熱で溶融可能な適切な直径の棒状の試料電極が必要で,しかも粉末製造の歩留まりを高めるためには棒の長さを長くする必要がある。Mo65Si5B10Ti10C10合金は融点が約1725°Cであり,Mo-Ti合金よりも低融点である。したがって,Mo65Si5B10Ti10C10合金を使ったEIGA法の課題整理は,Mo-Ti合金の粉末製造に対して合理的かつ有効な技術検討である。棒状の試料電極については,横型帯域溶融アーク炉を使って,直径約12 mm,長さ約280 mmの棒状インゴットを作製した。得られた2本の棒状試料電極を,放電加工機で継手加工し繋ぐことで,全長約550 mmほどの試料電極とした。これを使って,EIGAを実施したところ,継手の影響は見られず良好なガスアトマイズ粉末が得られた。また当初,ガスアトマイズ過程でSi濃度の低下が問題になったが,これも棒状インゴットの組成を適切に制御することで解決することができた。得られた粉末を使ってSPSの条件を検討したところ,相対密度がほぼ100 %の極めて良好な焼結体を得ることができた。以上のことから,Mo-Ti合金に対して,EIGA法による急冷凝固粉末の作製とその粉末を使ったSPSの実現可能性が確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は,2021年度の成果を活かしてMo-Ti合金に加え,Mo-Ti-Si合金の電極誘導溶融ガスアトマイズ(EIGA)法による急冷凝固ガスアトマイズ粉末の作製と放電プラズマ焼結(SPS)法による焼結体の作製を進める。Mo5SiB2,TiCを添加したMo-Ti基モシブチック合金の相平衡とミクロ組織形成に関する研究は計画通り遂行中であり,2022年度中には成果をまとめる予定である。その上で,Mo5SiB2やTiCを添加したMo-Ti基モシブチック合金の溶解したままの試料と熱処理を施した試料に対して,800°Cおよび 1100°Cで高温酸化挙動を調査し,粉末冶金プロセスへの展開に適した合金組成を決定する。そして,同様にEIGA法による急冷凝固ガスアトマイズ粉末の作製と放電プラズマ焼結(SPS)法による焼結体の作製を進める。得られたMo-Ti,Mo-Ti-Si,Mo-Mo5SiB2,ならびにMo-TiC合金のSPS焼結体に対して,700 - 1400°Cの範囲で高温酸化挙動を調査し,速度論的解析を進めることでMo-Ti合金の耐酸化性改善に対するSi(もしくはTi5Si3),Mo5SiB2とTiCの適正な体積率や望ましいミクロ組織形態の検討を行う。さらに,高温酸化試験後の試験片に対して,生成した酸化皮膜の解析に着手する。酸化皮膜の解析には,微小角入射X線回折による酸化物の構造解析のほか,走査型・透過型電子顕微鏡法による酸化膜のナノ・ミクロ組織の観察,さらに電子線プローブ・エネルギー分散型X線分光法による各種元素の分布挙動などの解析を実施する。そして,Ti,Si,B,Cが酸化皮膜形成に果たす役割について検討し,Pilling Bedworth Ratio(PBR)機構の補完的耐酸化機構の解明につなげる。
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