研究課題
本年度は各種評価に供するWO3焼結体および薄膜の作製方法を重点的に検討し、高密度焼結体の作製方法を確立するとともに、薄膜の堆積条件が薄膜組織、生成相に与える効果を明らかにした。特に薄膜においては、電極性能に有利と思われる粒径5nm程度のナノ結晶の堆積条件を明らかにした。このような組織は従来報告されていない新たな発見である。これらの試料を用いて以下を行った。(1-a) 昇温脱離分析による吸着気体の定性および定量分析:300℃の水素雰囲気で水素を注入したWO3焼結体の昇温脱離を行った。WO3バルクに溶解した水素を定量した。バルク溶解した水素は、昇温脱離により主にH2Oとして脱離し、H2Oの1/50程度がH2として脱離することを明らかにした。H2として脱離する水素は表面吸着した水素を含む。 (1-b) 水素および酸素の表面交換反応速度の評価・解析: 2H(D)および18Oの濃度の深さプロファイルのSIMS測定に供するWO3焼結体の同位体交換条件を検討した。 (1-c) インピーダンス解析による電極抵抗の評価・解析:WO3焼結体のプロトン伝導度評価法を見直し、電子ブロッキング電極を用いた直流伝導度測定により、混合伝導性の詳細を明らかにするとともに、各種電極候補材料に適用可能な混合伝導性の評価方法を確立した。(2-a) ラマン分光法による吸着酸素とWO3酸化物表面の化学状態解析:購入した高温雰囲気調整ステージを改造しラマン分光測定の方法を確立した。 (2-b) X線光電子分光法による吸着気体分子と電極材料の電子状態の評価解析:酸素分圧の異なる雰囲気で作製したWO3薄膜を前処理なしにXPS測定し、W5+/W6+イオンの状態がXPSで捕捉できることを確認した。また価電子帯スペクトル、O1sスペクトルから、それらに与える吸着酸素の効果の測定方法を検討した。
2: おおむね順調に進展している
評価に供する試料の作製方法を確立するとともに、各種評価方法の妥当性を確認することができており、次年度以降の本格検討の準備が整った。表面交換速度と拡散係数測定においてはSIMS装置の故障があったためわずかに遅れがあるが、2022年度開始早々に修理が完了する見込みであり、計画全体の進捗にはほとんど影響がない。
CaドープしたWO3薄膜の作製方法を検討し、WO3のプロトン拡散係数、伝導性や電極性能に対するキャリア密度の効果の検討準備を進めるとともに、WO3についてはインピーダンス解析や各種分光法を用いて、電極反応に重要な表面反応などの解析を進める。また、新たな電極候補材料となる、プロトン-電子混合伝導体の探索にも着手する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
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