研究課題/領域番号 |
21H04608
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
赤瀬 善太郎 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (90372317)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 透過電子顕微鏡 / 電磁場解析 / その場観察 / ローレンツ顕微鏡法 / 電子線ホログラフィー |
研究実績の概要 |
軟磁性材料設計の現場では元素が磁性に及ぼす影響についての研究は進んでいるが、材料組織が磁性にどのような影響を及ぼしているかという研究はまだ少なく、材料組織と磁性の関係を直視できる透過電子顕微鏡法には期待が寄せられている。一方、透過電子顕微鏡を用いた材料・デバイスの電磁場評価は近年分解能の面では大きな進展がみられるものの、外部磁場の変化に伴う磁区構造変化の観察に関してはまだ発展の余地がある。動的外部磁場下での観察が進んでいない一番の原因は顕微鏡中で試料に外部磁場を印可すると電子ビーム自体も進路を曲げられてしまうので、印可磁場の大きさに応じて電子線の軸調整を行わなければならないからである。研究代表者はこの問題に対し、磁場印可ホルダとローレンツ顕微鏡法をベースとした独自の磁区構造変化のその場観察手法を開発し、材料評価に展開してきた。本研究課題では、近年電子顕微鏡の分野にて技術的ブレイクスルーを起こしている高性能CMOSカメラを導入することにより、本手法で得られるデータの質の大幅な改善を図るとともに、データ解析の周辺技術を開発し、先端軟磁性材料の機能解明・性能評価に展開することを目的としている。 本課題では次の4つの項目を並行して進めている。(1)CMOSカメラの導入と、動的磁場下ローレンツ顕微鏡法への適用。(2)デジタルデータの解析方法の開発。(3)CMOSカメラを活用した軸構造解析法の模索。(4)実用材料の解析。初年度の後半の1月20日にカメラが納入される計画であったため、初年度の前半は電子顕微鏡メーカーである日本電子(株)所有の先端電子顕微鏡を用いた実験にリモートで立ち合い、CMOSカメラで連続撮影したローレンツ顕微鏡データを取得し、その解析方法を検討した(日本顕微鏡学会第64回シンポジウムにおいて発表)。カメラ納入後は本手法の撮影条件の最適化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度前半は東北大学の電子顕微鏡(JEM-3000F)へのCMOSカメラ(Gatan社製OneViewISカメラ)の導入に備えて、日本電子(株)所有の先端電子顕微鏡(JEM-ARM200F)にてリモート立ち合いにて予備実験を行い、その解析および、画像処理法の検討を行った。試料として市販のMnZnフェライトを用い、電子顕微鏡内で試料を連続傾斜させることにより対物レンズ磁場を試料面内方向に徐々に導入させたときのローレンツ顕微鏡像の連続データ(2048x2048pixel,100fps)を取得した。CMOSカメラによる高フレームレート撮影により、磁区構造が大きく変化する直前の前駆的な磁区構造変化を鮮明にとらえることができ、CMOSカメラ導入の有効性を示すことができた。得られたデータを画像ファイルに変換し、位相限定相関法とロバスト回帰(機械学習の手法)を用いてドリフト補正をおこなうスクリプトを作成した。このスクリプトの主な目的は交流磁場印可実験をする際に、像のドリフトを電子光学的に取り除けなかったときに画像処理でドリフトを補正することである。また、このスクリプトは、今後本手法で得られたデータを定量的な画像解析(強度輸送方程式等)へ応用することを見据えて作成された。得られた成果は日本顕微鏡学会第64回シンポジウムにおいて発表した。 令和4年1月20日にOneViewISカメラが納入され、それ以降は、交流磁場印可システムによる磁壁移動の様子を同カメラで撮影し、撮影条件の最適化を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では上でも述べたとおり、以下に挙げる1~4の項目を並行して進める計画である。 (1)CMOSカメラの導入と、動的磁場下ローレンツ顕微鏡法への適用。(2)デジタルデータの解析方法の開発。(3)CMOSカメラを活用した軸構造解析法の模索。(4)実用材料の解析。 (1)のカメラの導入と初期的な実証実験は初年度末に果たした。二年目以降は(2)~(4)の項目を発展させる。(2)に関してはカメラの導入後、付属の解析ソフトで画像ブレ補正はかなり改善されることが判明したが、初年度に自作した補正用のスクリプトと組み合わせることで、より精度の高い位置合わせを実現させ高度な画像解析(強度輸送方程式の適用など)を目指す。強度輸送方程式に関して、初年度の予備実験より、ベンドコンターによりアーティファクトが強くでることが判明したため、令和4年度はその対策を進めたい。(3)に関して、初年度まではCMOSカメラの想定していた応用範囲は磁区構造観察に限定していたが、電子線ホログラフィーとの組み合わせにより、電場変動の検出にも有効であることがわかってきたため、観察対象を電場に広げて、ホログラムのその場観察にも取り組む。(4)に関しては、共同研究先から提供していただいた複数の特性の異なる軟磁性材料について、(1)の観察手法を適用していき、観察データを蓄積する。磁区構造変化の観察だけでなく、変化の具合を定量的に評価するための方法についても議論していく。 得られた成果は、令和4年度は国内学会(日本顕微鏡学会学術講演会、日本金属学会講演大会)にて報告する予定である。
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