研究課題/領域番号 |
21H04613
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
稲邑 朋也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60361771)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
キーワード | 回位 / マルテンサイト / 加工熱処理 |
研究実績の概要 |
昨年度に明らかにした,3重点のねじれが消失する幾何学条件を下に,ねじれを系統的に変化させた合金を作製してその組織を解析するとともに,無応力下,応力下(100MPa)でのマルテンサイト変態温度,形状回復歪みが繰り返し数とともにどのように変化するのか解析した.その結果,ねじれが1°以内であれば,格子不変変形としての内部双晶を持たないタイル状のマルテンサイトドメインが双晶関係で結合した特異な組織が出現することがわかった.しかしMs変化はねじれが小さいほど小さく,ねじれ0.1°であれば1000サイクル後の変態温度変化は1°程度であった. またねじれ1°の合金のドメイン組織をTEM内で逆変態させて転位の発生挙動を解析した.幾何条件から予想される2種類の3重点(TC1, TC2)において,逆変態後も組織に転位は観察されなかった.しかしそれら3重点が連鎖して形成されたクラスター周囲には転位が発生しており,3重点に発生するねじれが集積して転位発生をおこしていることが示唆された.このことからもねじれの存在は転位の発生をもたらし形状記憶特性の劣化を起こす要因であることが確認された. 上記の材料にたいして,10%の冷間圧延を加えてから400℃で熱処理を施したところ,マルテンサイト変態点は無処理材とほぼ同じであるがビッカース硬度は全ての合金で20%ほど増加した.これは降伏応力が加工硬化によって上昇したことを意味する.これらの材料に対して無応力下,応力下(100MPa)での繰り返しサイクル試験を行ったところ,上記の加工熱処理によって,1000サイクル後のマルテンサイト変態温度のシフトは,無処理状態で3℃であった合金であっても1℃以下に抑えることに成功した.このように,本研究で提案する加工熱処理法とねじれ制御の相乗効果によって,ねじれを完全に消失させなくても飛躍的な長寿命化が可能であることが立証された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定よりも早く,加工熱処理とねじれ消去の相乗効果を実験的に確認することができた.またねじれが1°程度であっても3重点1つ1つには転位は発生しておらず,それらが集合体となった場合に周囲に転位が発生する点も予想外の結果であった.このことは,比較的ねじれが大きい合金であっても降伏応力を増加させることで3重点連鎖組織の形成を可能にする一因であると思われる.またその場観察からも3重点連鎖組織が一気に形成する様が観察されており,マルテンサイト組織の形成過程として前例のない予想外の結果が得られている.
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定を前倒しして今年度内に「許容ねじれ値」を定量的に同定する.そのために加工熱処理を施した材料のサイクル試験を続行する.さらに転位の発生状況をTEMをもちいてより詳細に解析するとともに,組織形成過程のその場観察をすすめる.
|