研究実績の概要 |
閃亜鉛型結晶構造を有する、II-VI族化合物半導体結晶である硫化亜鉛(ZnS)単結晶は、通常の白色光下では数%の塑性歪みを示したのち急激な破壊を示す(光硬化現象)のに対し、暗室下では10倍以上の塑性歪みを示す。この成果により、従来から脆いと考えられてきた無機結晶であっても、光環境を変えることで、機械的性質を大きく制御できる可能性が広がったといえる。しかし、ZnSの光硬化現象の起源である転位量子構造はZnSに特有なものなのか、他のII-VI族、III-V族化合物半導体では起こりうるのか、については解明されていない。そこで本年度においては、ZnSe, ZnTe, CdS, CdSe, CdTe(II-VI族)半導体結晶について、第一原理計算によるすべり転位の電子原子レベル構造解析を系統的に行った。各結晶に対する転位スーパーセルについて、転位コア近傍の原子配列や転位生成エネルギーのセルサイズ依存性を調べて、計算精度の検証を行った。また、これらの結晶における最安定な転位構造は、ZnS結晶中のそれと同様であることが判明した。さらに、過剰キャリアの影響も検討したところ、ZnSと同様に過剰キャリアによる転位コア再構成が生じることも明らかにした。また、ZnTe単結晶について室温での圧縮機械試験を行い、光照射硬化についての検証実験を行い、同現象の再現性を確認するとともに、他の系に対する実験条件の基礎的検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、ZnS結晶が示す光硬化現象の重要因子は、すべり転位コアにおける局在した量子構造であることを明らかにしてきた。同様な現象が他の化合物半導体結晶でも起こりうるのかを調べるため、本年度では、以下の項目について検討を進めた。これらは当初予想・計画していた通りであり、おおむね順調に進展していると考えている。 (1) 第一原理計算モデルの検討:II-VI族系の複数の結晶に対し、転位コア近傍の原子配列や転位生成エネルギーのスーパーセルサイズ依存性を調べて、計算精度の見積を行うことで、得られた結果の確度を検証できた。また水素終端モデルでは、終端水素付近で静電ポテンシャルの局在が観察され、このアーティファクトが転位量子構造評価の障害となることが判明した。 (2) 光硬化メカニズムの検討:第一原理計算で得られる転位コアの局所的電子状態は、光励起前の基底状態のそれに相当する。これまで検討してきた、II-VI族Zn系およびCd系半導体結晶では、ZnSで解明してきた転位コアでの量子構造や過剰キャリア存在下の最安定構造などに関して、同様な電子・原子レベル構造を持つことを明らかにできた。 (3) 実験検証:ZnTe, ZnO, GaP等の高純度単結晶を用いて、光環境制御下での室温圧縮試験を行い基礎的実験条件の検討を行った。試料に対する光照射角度や照射光強度について検討し、最適な実験条件を求めた。
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