研究課題/領域番号 |
21H04619
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 勝久 京都大学, 工学研究科, 教授 (80188292)
|
研究分担者 |
藤田 晃司 京都大学, 工学研究科, 教授 (50314240)
村井 俊介 京都大学, 工学研究科, 助教 (20378805)
赤松 寛文 九州大学, 工学研究院, 准教授 (10776537)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
キーワード | メタ光学 / 磁性体 / 誘電体 / 光機能 / プラズモニクス |
研究実績の概要 |
2021年度の成果として、まずメタ表面の構築では、多種類の物質を用いてさまざまなナノ構造を持つメタ表面の作製に成功した。具体的には、局在型表面プラズモン共鳴とプラズモニック-フォトニック結合モードが期待できる物質としてAg、ミー共鳴ならびにそれとフォトンとの結合が期待できる物質としてSi、TiO2、ZrO2を対象に、ナノ粒子の形状、大きさ、配列の仕方、周期をさまざまに変化させたナノ周期アレイを作製した。特にTiO2とZrO2に関しては、代表研究者らが独自に考案したTi金属、TiN、ZrNのナノ周期アレイの酸化を利用する手法で精度よく周期構造を構築した。得られたナノ周期アレイについては、実験的に透過スペクトルの入射角依存性を測定して、局在型表面プラズモン共鳴、ミー共鳴、ならびにこれらとフォトンの結合モードに由来する光吸収波長を確認するとともに、FDTD法を用いた数値シミュレーションにより透過率の波長ならびに入射角依存性を導いて、これが実験結果と良く一致することを示した。同時に、電場および磁場の増強の様子と空間的な分布状態をシミュレーションにより明らかにした。 また、メタ表面と磁性体との複合体を対象に磁気光学効果の一種であるファラデー効果を評価した。予備的な実験データが得られているAlナノ周期アレイに蒸着したFe薄膜を対象に、ファラデー効果を理論的にモデル化してFDTD法による数値シミュレーションを実行し、ファラデー効果の増幅がプラズモニック-フォトニック結合モードによってもたらされること、系が置かれる環境の誘電率を変えると増幅が起こる波長を制御できることを明らかにした。 加えて、新規酸化物磁性体と誘電体にかかわる成果として、六方晶TmFeO3ナノ粒子を合成して磁気的性質を明らかにするとともに、電子誘電体の一種であるYFe2O4単結晶の化学量論と誘電特性の相関を見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を提案した時点で、メタ表面を構築する物質としてAl、Ag、Au、TiN、ZrNのようなプラズモニック金属、Si、TiO2などのミー共鳴場を与える誘電体を対象とすることを目標に掲げた。2021年度はこのうちAg、Si、TiO2のメタ表面を作製し、光透過スペクトル測定とFDTDシミュレーションに基づき、個々のナノ粒子の局在型表面プラズモンならびにミー共鳴に対応する双極子および多極子の励起、また、それらが光回折を介して結合したプラズモン場(あるいはミー共鳴場)-フォトンカップリングモードの存在を実証した。さらに、ZrNナノ周期アレイを空気中で酸化するというきわめて簡便な方法で、もとの形状や配列を維持したままZrO2ナノ周期アレイに変換することにも成功した。ZrO2はSiやTiO2と比較するとバンドギャップの大きな誘電体であるため、この材料は紫外域での光機能増幅に有効である。実際、同一のナノ構造を持つZrO2ならびにTiO2ナノ周期アレイを作製し、紫外励起で発光するEu3+錯体と組み合わせて発光の増強度を比較したところ、ミー共鳴に関係するモードが励起される波長においてZrO2ナノ周期アレイがより大きな効果を示した。この結果は、ナノ周期アレイによる光増幅が実現する波長領域を広げたことを意味しており、初年度の成果の一つである。 また、メタ表面を用いた磁性体の光機能増幅として、Alナノ周期アレイとFe薄膜の組合せを対象にファラデー効果の増幅を実現するとともに、現象を説明しうる理論モデルの構築にも成功した。この理論モデルは汎用性があるため、他のナノ周期アレイと磁性体の複合系にも適用が可能である。 加えて、新たな酸化物磁性体・誘電体の合成や構造と物性の相関の解明などにも着手しており、研究は予定通り順調に進んでいると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
メタ光学に資する物質・材料としては光学損失の少ない誘電体が有利である。その観点から、2021年度に引き続いてSi、TiO2、ZrO2を中心にメタ表面の設計と構築を進めるとともに、プラズモニック金属についても研究を実施する。特に、Agは酸化を受けやすいという実用的なデメリットがあるものの、優れた光学特性のため、応用上、特性の向上を目指す研究は十分に意義がある。2021年度はAgナノ周期アレイをエラストマーに埋め込み、いわゆるナノアンテナシールとする研究も進めたが、構造や特性の最適化には至っていないため、2022年度はさらに改善を試みる。2021年に実施した研究と同様、作製したメタ表面は走査型電子顕微鏡によって周期構造を確認したのち、FDTDシミュレーションにより光透過スペクトルなど光物性を明らかにするとともに電場および磁場増強の分布などを可視化する。また、光物性は実測も行い、シミュレーションの結果に基づいて個々の双極子、多極子、カップリングモードの状態を解析する。 メタ表面と磁性体の複合化による磁気光学効果の増幅については、特に可視から紫外の波長領域を対象に実験と数値シミュレーションに基づく解析を進める。そのため、ナノ周期アレイとしては、Al、TiO2、ZrO2を念頭に置く。磁性体としては、これまで研究代表者らが開拓してきた不規則ZnFe2O4、Eu2+含有ペロブスカイト酸化物を対象に、これらの薄膜をナノ周期アレイと組み合わせ、ファラデー効果の測定と解析を行う。 さらに、新規酸化物磁性体、誘電体の合成についても研究を進める。特に、種々の希土類フェライト、アルカリ金属フェライトに着目して、単結晶育成、構造解析、磁性と誘電性の評価を行う。
|