研究課題/領域番号 |
21H04631
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 雅宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (10211921)
|
研究分担者 |
田原 義朗 同志社大学, 理工学部, 准教授 (30638383)
神谷 典穂 九州大学, 工学研究院, 教授 (50302766)
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60595148)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
|
キーワード | 経皮ワクチン / 経皮吸収製剤 / インフルエンザ / マラリア / 感染症予防 / 花粉症治療 / DDS / コロナ |
研究実績の概要 |
昨年までの研究で、界面活性剤であるMGO(モノグリセリンエステル)や、経皮吸収促進剤として疎水性の脂質由来のイオン液体をS/O製剤に導入することで、抗原タンパク質の皮膚浸透性が向上し、抗体産生が有意に向上することを見出した。本年度は、ワクチンテープ (抗原と別々に封入あるいは化学修飾・遺伝子工学的手法により抗原に直接修飾)の検討を行った。さらに、経皮ワクチンに最適な疎水性イオン液体の開発(生体安全性を考慮)を行い、生体脂質DMPC由来のカチオンを構成成分とした、皮膚浸透促進効果の高いイオン液体により、抗原の皮膚浸透性と抗原提示細胞へのデリバリーの高効率化を図った。 さらに本年度は、臨床応用を見据え、インフルエンザとCOVID-19の2つの経皮ワクチンシステムを検討した。体内の免疫応答は、大きく液性免疫と細胞性免疫に分類され、互いにバランスを取り合っているが、コロナ感染症などの免疫治療では、細胞性免疫の活性化が重要であることが知られている。 コロナのワクチンでは、細胞性免疫である細胞傷害性T細胞(CTL)が、感染したコロナ細胞殺傷性を示す。このような細胞性免疫の活性化を達成するために、免疫活性化物質(アジュバント)の利用が有効であると考えている。特に、Toll様受容体(TLR)と呼ばれる、免疫細胞に発現している受容体が、免疫応答を制御していることが知られているため、TLR結合性リガンドをアジュバントとして用いた。具体的には、細胞性免疫を強力に誘導することが報告されている、Type-A のCpG オリゴデオキシヌクレオチドを用いた。その結果、インフルエンザの経皮ワクチンでは、注射投与とほぼ同程度の免疫効果が発現し、コロナワクチンにおいては、注射の5分の1程度の抗体ができることを確認した。引き続き、完全非侵襲性な高効率次世代経皮ワクチンシステムの構築を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経皮ワクチン構築に重要な1)安定性、2)経皮浸透性、3)免疫付与のそれぞれのステップを効率化し、S/O製剤を用いて、完全非侵襲の経皮免疫システムの構築に成功している。S/O経皮製剤は、抗原となるタンパク質が、疎水性の高いバリアである角質層を突破できるという製剤であるが、S/O製剤による効果的な免疫付与に成功した。 本研究では、今後の臨床応用を見据え、インフルエンザとコロナワクチンの2つの経皮免疫システムの達成を目標とし、それぞれが大きく進展している。 特に経皮免疫では、細胞性免疫である細胞傷害性T細胞(CTL)が、注射に比べ増強することを明らかとした。また、インフルエンザは、初期の免疫速度は注射に比べ劣るものの長期に免疫化が持続することを明らかにした。今回、アジュバントとして、CpGの封入形態の検討を行った。コロナのワクチンにおいては、抗原にRBDを封入したS/O製剤を調整し、IgG抗体の産生量、免疫応答のサブクラス解析を行い、経皮ワクチンが注射に比べTh1を活性化することを明らかにした。 以上のように、本研究は計画に従い概ね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、がん免疫療法と感染症免疫療法の2つの経皮免疫システムが臨床応用可能なレベルに達成可能であるかを評価する。経皮がん免疫では、皮膚がんがんのモデルタンパク質(OVA)抗原を用いた検討を元に、さらに臨床モデルとして、実在のがん細胞を対象にした研究を進める。具体的には、皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)を対象に考えている。製剤化を行う抗原には、がん化した細胞組織のみに発現する分化抗原の一種、Tyrosinase related protein-2(TRP-2)のCTLエピトープとして知られるTRP-2180-188 (SVYDFFVWL) を選択する。このTRP-2は、ヒト・マウスどちらにおいても認識される共通の存在で、複数の前臨床・臨床試験でメラノーマ抗原として利用されていることから、本申請研究の臨床モデルとして適していると考えている。さらに、核酸医薬としてアンチセンスオリゴ(トラベデルセン)への展開を目指す。 今後、核酸医薬の製剤化を行うには、経皮の浸透のみならず細胞移行(トランスフェクション)機能が鍵を握る。そのため、経皮の浸透性向上のみならず経皮で浸透したオリゴ核酸が実際に細胞に移行して機能するかを検証する。さらには、小動物を用いた動物試験において、がんの成長抑制効果を検証する計画である。核酸医薬の経皮製剤を用いることで、重篤な副作用を起こす恐れのある注射製剤に匹敵する効果が得られれば、さらに踏み込んだ感染症経皮ワクチンの発展に貢献できると考えている。 感染症免疫では、昨年度の検討により高効率なインフルエンザ免疫療法が確立されたため、ワクチンシールの作成を行い、パッチ製剤でインフルエンザの予防効果(免疫化)が可能であるかの検討を行う。
|