研究の目的と研究実施計画に沿って、前年度に引き続き、今年度も溶媒中における有機分子と金属ナノ結晶の特性について調べた。核生成させた後、段階的に核成長させて合成した、単分散な金属ナノ結晶において、平均粒径によって、金属と有機分子の結合と解離のしやすさが大きく変化することを定量的に明らかにした。また、異なる合成温度で作製した金属ナノ結晶において、平均粒径がほぼ一定の条件にも関わらず、合成温度によって、結合と解離のしやすさは、同様に、大きく変化することが観察された。これらの結果から、金属ナノ結晶の表面に露出している金属原子の配列によって、分子の結合の安定性が決定づけられると考えられた。実験で得られた結合と解離のしやすさを特徴付けるパラメータの値は、過去の研究で報告された平滑な金属に作用する有機分子の場合と比べて、大きく異なる値を示し、本研究で着目している反応系においては、結合が不安定で、有機分子が金属ナノ結晶から外れやすいことが定量的に示された。その特性に基づいて、合理的な金属ナノ結晶の利用方法も検討した。具体的に、その独自の特性を活用し、合理的な方法で有機分子を金属ナノ結晶から外すと、室温付近でも、金属ナノ結晶は不安定化し、結晶は粗大化して、連結した金属の構造体へと発達させることができた。一般に、有機分子が表面に結合している状態では、金属ナノ結晶の間の電子移動は大きく抑制されるため、金属ナノ結晶の多層膜は絶縁体に近い電気伝導率を示す。それに対して、連結した構造(形態)に発達させた金属は、本来の金属に近い、高い電気伝導率を示すことが確認された。
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