研究課題/領域番号 |
21H04644
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 上級研究員 (80586917)
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研究分担者 |
安藤 康伸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (00715039)
久間 晋 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50600045)
今井 みやび 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (50845815)
岩佐 豪 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80596685)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 光学選択則 / 近接場光学 / 走査プローブ顕微鏡 / エネルギー変換 |
研究実績の概要 |
実験面では、計測システムの改良を継続して行ってきており、徐々に精度の高い分光データの取得が進んでいる。近接場光学の光STM実験では、ナフタロシアニン分子とマグネシウムナフタロシアニン分子の、単一分子近接場フォトルミネッセンス分光計測を実施した。その結果、STM探針直下に存在する局在プラズモンによる蛍光増強効果によって、分子分光で良く知られるKasha則が破れていることを明らかにした。 超流動He液滴実験では、新規パルス液滴ビーム装置を作製しその運用を進めるとともに、ヘリウム液滴に内包されたフタロシアニン分子を対象にレーザー誘起蛍光(LIF)計測を実施した。分光データのさらなる高精度化に向け、パルスバルブのアパーチャーサイズと排気システムを最適化し液滴ビームを高強度化する必要性があることを見出した。 データ解析においては、計測実験によって取得されるスペクトルデータに対して、これまでに独自開発してきたEMアルゴリズムを適用する検討を進めた。スペクトルに含まれる多数のピークの本数の推定に関しては、MAP推定の枠組みとsimulated annealingを利用したスパース推定によって実施するという方針で解析プログラムを開発している。 理論面では、STM探針周りに局在した近接場光を双極子場で近似する手法の検討を行っている。実際の実験で用いられるフタロシアニンやナフタロシアニン、ジメチルジスルフィドなどの分子の双極子モーメントの計算を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光STM実験に関しては、高精度の単一分子近接場フォトルミネッセンス分光が実施できる装置を、これまでの1台から2台に増やすことで、データ取得と探索を大幅にスピードアップすることができている。また当該実験を行うことができる人員に関しても増やしていくべく研究協力者との連携を進めている。その結果として、いくつかの分子や基板の組み合わせにおいて分光データを取得することが進んできており、また今後の研究の加速にも期待ができる状況にある。超流動He液滴実験では、高精度な蛍光スペクトルの取得に向け装置改良が順調に進んでいる。新規パルス液滴ビーム装置を作製し、その性能改善のために、パルスバルブのアパーチャサイズと排気システムを最適化することで液滴ビームの高強度化を試みている。データ解析と理論に関しては、現状で具体的に解析するべき実験データが得られていない状況において、それぞれに既存の枠組みを想定する分光データに適応することを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
光STM実験は、スピン選択則の解明のため白金フタロシアニン分子を対象に単一分子フォトルミネッセンス分光計測を行う。また、単一分子近接場分光のさらなる高精度化を目指し、STMではなく原子間力顕微鏡(AFM)に基づく計測システムの開発を実施する。超流動He液滴実験では、分光データのさらなる高精度化に向け、パルスバルブのアパーチャーサイズと排気システムを最適化し液滴ビームを高強度化することが技術的な課題となる。そこに、高分解能色素リングレーザーからの励起光と蛍光捕集システムを導入することで、伝搬場中における高感度なLIF計測系を構築する。計測実験によって取得されたスペクトルデータに対して独自開発したEM アルゴリズムを適用してピーク位置の高速かつ客観的な推定を行う。本フィッティングには独自に開発したローレンツ分布に対するEMアルゴリズムを用いる。またピーク本数の推定にはMAP推定の枠組とsimulated annealingを利用したスパース推定によって実施する。得られたピーク位置などの情報から選択則の解析につなぐ。理論面では、双極子近似を超えた領域における、近接場光と分子の相互作用に由来する選択則の解明を行う。近接場光の空間構造は光源の形状に依存するため統一的な記述はできないが、STM探針周りに局在した近接場光を双極子場で近似して、実際の実験で用いられているフタロシアニン系やジメチルジスルフィドや他の分子の遷移モーメントの計算進める。その結果を伝搬光と比較することで、近接場の特異性を明らかにする。
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