研究課題/領域番号 |
21H04651
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 達生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00242016)
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研究分担者 |
井上 悟 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (00799562)
東野 寿樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (30761324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 薄膜トランジスタ / 半導体界面 |
研究実績の概要 |
本研究では、高移動度・低電圧駆動・高急峻スイッチングを同時に示す実用的な塗布型薄膜トランジスタの実現を目指し、有機半導体と絶縁層/電極との界面における高効率なキャリア輸送/注入が両立する機構の解明と、これに適した新規層状有機半導体開発、構造-物性相関の解明、及び革新製膜プロセス開発を行った。前年度の成果を踏まえて、本年度はまず、①金属電極上における極薄半導体層の安定性と経時に伴う構造変性の様相をさらに詳細に調べた。特に経時劣化が確認されたPh-BTBT-Cn系を主な対象に、2分子膜の積層数・電極の表面修飾の有無・封止膜の有無等による挙動について調べた。結果、絶縁層上の有機半導体層には劣化は全く見られないものの、金属電極上では劣化速度が有機半導体層の層厚に依存して進行すること、また保護層により劣化を抑制できることが分かった。またAFM測定・放射光X線回折・可視光偏光吸収測定等により、経時とともに2分子膜構造の再構成が生じていることが明らかになった。また、②新規層状有機半導体開発については、Ph-BTBT-Cnのフェニル基先端にメチル基を付与したpTol-BTBT-Cnを開発し、分子層間の相互作用がメチル基により著しく抑えられる効果を確認した。特に層間相互作用の抑制によって、アルキル鎖の炭素数が偶数の場合に、非対称分子が一様に整列した分子層どうしが、全て向きを同一にして積み重なった新たな極性層状ヘリンボーン構造を構成することが明らかになった。さらに、③層状有機半導体による溶液に絶縁ポリマーを混合するポリマーブレンド法による簡易製膜法の検討を進めた。結果、多結晶薄膜で急峻なスイッチングを示す高性能コプラナー型薄膜トランジスタの開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度明らかになった電極上の極薄有機半導体層の膜質の変性に関して、本年度行った研究により、劣化進行速度が有機半導体層の層厚に依存し、かつ保護層により劣化を抑制できることが明らかになった。これは極薄有機半導体層の層状分子配列の安定性が十分ではなく、表面エネルギーの高い金属表面において分子配列の再構成が生じることを意味している。また極性層状ヘリンボーン構造を示す新たな有機半導体の開発、及びポリマーブレンド法による簡易スピンコートによる高性能な薄膜トランジスタの開発に成功するなど、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進に関し、本年度までに明らかになった金属電極上における極薄半導体層の構造変性に関して、これを効果的に抑制させるデバイス構築技術を確立した上で、そのようなデバイス内で半導体・電極・絶縁体がともに接した3元界面において、キャリア注入に対するさらなる障壁ポテンシャルの起因となる機構の解明に取り組む。また3元界面の構成要素となる有機半導体として、本年度開発した極性有機半導体を用いる効果について検討する。さらに、これら有機半導体における特有な液晶性を活用したさらなる革新製膜プロセスの開発を進展させる。
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