研究課題/領域番号 |
21H04662
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菅原 康弘 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (40206404)
|
研究分担者 |
李 艶君 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (50379137)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
|
キーワード | 近接場光学顕微鏡 |
研究実績の概要 |
光の電界が物質に誘起する分極は、電子の励起状態の情報を含み、光と物質との相互作用において中心的役割を担う物理量である。しかし、これまで原子スケールでこれを直接観察した例はない。本研究の目的は、力検出を用いた近接場光学顕微鏡(光誘起力顕微鏡)のさらなる超高感度化・超高分解能化を実現すると共に、その原子分解能観察の機構を解明することである。本年度は、以下のような成果が得られた。 1)有機分子の分子軌道に影響しない原子レベルで平坦な絶縁性表面の作製 単一分子を効率的に光照射するため、金属探針と金属基板(ギャップモード)による増強電場を用いる。また、有機分子の分子軌道が、金属基板の電子状態と混成しないようにする必要がある。そこで、Ag(001)表面上に2原子層の絶縁性ペンタセン薄膜を形成した基板を作製した。 2)近接場光学顕微鏡の超高感度・超高分解能観察の実証 物質表面の構造と局在する近接場光の分布を原子スケールでより超高感度・超高分解能に観察できることを実証した。分子としては、ペンタセン薄膜/Ag(001)基板上に吸着させたフラーレン分子を取り上げた。金属探針としては、金(Au)コート探針を用いた。 3)非励起状態における単一分子の骨格構造と誘起分極パターンの解明 上記2)で取り上げたフラーレン分子の五員環と六員環を実験的に撮像することに成功した。また、光誘起力の探針と分子の間の距離依存性を測定することにも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フラーレン分子の五員環と六員環に対する光誘起分極パターンを撮像することに成功した。これまでの近接場光学顕微鏡では、分子の五員環と六員環を観察することは困難であったが、このような高分解能が光学画像を取得したのは本研究が初めてである。このように当初の研究計画以上に研究が推進していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、円偏光した光に対するキラル分子の誘起分極パターンを原子分解能で観察し、その画像化機構を解明する。具体的には、以下のような推進方策を計画している。 1)励起状態における単一分子の誘起分極パターンの解明 フラーレン分子の励起状態おける誘起分極パターンを高分解能を測定する。許容遷移だけでなく禁制遷移を含む励起分極パターンの可視化に挑戦する。 2)キラル分子の誘起分極パターンの解明 円偏光に対するキラル分子の誘起分極パターンを高分解能に観察する。取得した誘起分極パターンの対称性に基づいて、キラル分子の巨大円二色性の起源を検討する。
|