光の電界が物質に誘起する分極は、電子の励起状態の情報を含み、光と物質との相互作用において中心的役割を担う物理量である。しかし、これまで原子・分子スケールでこれを直接観察した例はない。本研究の目的は、力検出を用いた近接場光学顕微鏡(光誘起力顕微鏡)のさらなる超高感度化・超高分解能化を実現すると共に、その原子分解能観察の機構を解明することである。令和5年度に実施した研究については、以下のような成果が得られた。 1)単一分子の誘起分極パターンの取得に成功 銅フタロシアニン分子に対する光誘起分極パターンを高分解能に測定することに成功した。P偏光入射光に対して、銅フタロシアニン分子の外側において光誘起力が増大した。 2)円偏光を変調する光照射系の実現 キラリティーの測定は、円二色性分光法に基づき、右回りの円偏光と左回りの円偏光の応答の差より行う。キラリティーを高感度に測定するため、右回りの円偏光と左回りの円偏光が交互に入れ替わる光照射系を実現した。円偏光を変調した光で物質表面を照射し、カンチレバーの周波数シフトに現れる変調成分をロックインアンプで検出することにより、キラリティーを測定できるようにした。 3)キラル分子の誘起分極パターンの取得に成功 円偏光入射光を用いて、銅フタロシアニン分子に対する光誘起分極パターンを高分解能に取得することに成功した。円偏光入射光に対して、銅フタロシアニン分子の内側において光誘起力が増大した。
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