研究課題/領域番号 |
21H04664
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学研究科, 教授 (90180562)
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研究分担者 |
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 准教授 (30415880)
渡邉 則昭 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (60466539)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 放射性廃棄物 / 処分システム / セメント系バリア / 核種移行抑制 / 自己修復機能 / 塩水系地下水冠水環境 / カルシウムシリケート水和物 / 共存イオン |
研究実績の概要 |
予定した次の課題に取り組んだ。 検討課題(1)地下温度および共存塩類を考慮したCSHによる核種閉じ込め機能の速度論:EuのCa-Al-Si系水和物への収着に及ぼすCsやBa共存の影響は小さいこと、また、Euは温度やホウ素濃度に関わらずCSHと相互作用するものの、養生期間が長くなると高pHかつホウ素共存下ではEuが沈殿する可能性が示された。さらに、ホウ素の共存する系では、ラマンスペクトルからホウ素濃度が200 mM以上においてホウ酸四面体が観察され、ポルトランダイト、ホウ酸塩化合物およびCSH系水和物へのCaの分配が動的に変化していくことが示唆された。他方、ゼータ電位はNaCl濃度による依存性は小さく、Ca/Siモル比0.4では-20 mV程度、1.6では+20 mVであり、Csの収着性と調和的であった。 検討課題(2)セメント系バリア(CSH)の地下水流動場内生成のダイナミクス:セメントに起因して高pHになったCaイオンを含む塩水系地下水を花崗岩と接する模擬亀裂(初期の亀裂幅0.1 mm未満)に流し、CSHとの形成を浸透性の変化として追跡した。浸透性の変化は、比較的な簡便なモデルによって良く表現できること、また、流動場においてCaの消費量から得られる見かけのケイ素の溶解速度は、従来の報告された値より高く、Na濃度が高くなると大きくなり、析出物の成長速度のNa濃度の依存性と同様の傾向にあることが明らかになった。加えて、CSHの亀裂表面での形成は局所的であることが示唆された。 検討課題(3)最適なセメント成分および細骨材の組み合わせ:ヨウ化物イオンとの相互作用が期待されるハイドロタルサイト(以下HTと略記)を細骨材として予め混入することを考え、塩水系地下水を想定した塩素イオンとの共存系における収着分配係数Kdを求めたところ、液固比が小さくなる(地下の状態に近づく)ほど、塩水系においてもKdの値1.0 L/kgを十分に超え、HTの密度を考慮すると遅延係数は4~7程度にあることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
検討課題(1)では、特に、ホウ素の共存する系において、前述のように、設定温度および養生期間毎のラマンスペクトルから、Caは固相形成初期では、ポルトランダイトにより消費されるが、養生時間に従って、ホウ酸塩化合物やCSHに分配され、ホウ酸塩化合物の一部のCaはCSHにも分配されることが示唆された。ここでホウ酸塩化合物は、ホウ酸カルシウムおよびホウ酸塩錯体を指す。本成果は、系統的な実験により初めて示されたもので、複雑な系におけるCSHの動的な挙動の理解に大きく寄与する。また、検討課題(2)において、Ca含有高アルカリ地下水(セメントの処分場での大量な利用に伴って発生する)と花崗岩亀裂を表面との流動を伴う相互作用についてNa濃度を実験パラメータとして検討した。その結果、Na濃度が0から600 mMまでの範囲において比較的簡便な数学モデルにより透水性の時間変化を表し得ることが分かった。さらに、そこからSiの見かけの溶解速度定数とCSHの見かけの成長速度定数を算出でき、それらの値についてのNa濃度の依存性が双方の値とも同様の傾向になることを定量的に明らかにできたことも予想以上の大きな進捗と言える。今後、これらの速度定数の絶対値の違いについてさらに検討を進める。さらに、検討課題(3)では、これまでハイドロタルサイト(HT)は淡水系においてヨウ化物イオンとの相互作用が期待されたが、本研究により塩水系地下水においても、地下環境のような液固比が小さい場合、ヨウ化物イオンの遅延に寄与する収着性が明らかになったことは大きな成果と言える。このことはHTを予め細骨材の一部と利用することの有用性を意味し、検討課題(2)のCSHの形成に伴う透水性の減少と併せることにより、ヨウ素の移行抑制にも寄与するセメント系バリアの構築に寄与することを意味する。 以上の成果は予想を超えるもので、大きな進捗と考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(R5年度)では、これまでの成果に基づき、申請に従って前述の検討課題(1)から(3)を行い、最終年度(R6年度)ではこれらの検討を継続するとともに、検討課題(4)核種収着メカニズムの学術基盤の構築と新たなセメントバリア開発を進める。以下に各課題の今後の推進方策を示す。 検討課題(1):これまで2価の陽イオンとしてはBaを用いてきた。これは1価の陽イオンであるセシウム(Cs-135およびCs-137)のBaへの崩壊を考慮している。次年度以降は2価の陽イオンとしてSrにも注目する。Sr-90はCs-137と並び重要な核種の一つである。また、養生期間はこれまで長く取って進める方向であったが、CSHの形成とともに収着性の変化を追う観点から、より短い養生期間でのCsやSrのCSHへの収着挙動をも把握する。また、Euについても温度依存性について実験を進める。 検討課題(2):前年度までと同様に花崗岩亀裂(狭隘な流路)を模擬するマイクロフローセルを用いて、流路でのCSHの形成とそれに伴う浸透性の低下について、簡便な数学モデルを用いて実験結果をさらに整理する。そこでは、特に塩水系での流路内でのCSH形成を花崗岩の構成鉱物からのSiの溶解速度と関連させて定量化するとともに、花崗岩の構成鉱物からのSiの溶解速度に関する従来の報告も参考にしながら、解析結果の解釈を進め、Siの溶解に寄与する花崗岩構成鉱物の表面積についても考察をしていく。 検討課題(3): 昨年度実施したハイドロタルサイトと塩水系地下水中のヨウ化物イオンとの相互作用(化学的な核種移行の抑制効果)の結果を整理し、検討課題(2)のCSHの流路表面への析出による透水性の低下(物理的な核種移行の抑制効果)をも考慮して、ヨウ素の物理的および化学的な核種移行の抑制効果を統合する新たな評価手法を示す。 これらの検討課題(1)~(3)の結果と知見を前述の検討課題(4)に統合化していく予定である。
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