研究課題
本研究は、枯渇油田の石油貯留層において嫌気微生物が原油を分解しメタンを生成する機能を最大限に活用して残留原油を天然ガス=新たなエネルギー資源として再生・回収するための革新的な基盤技術の創成を志向するものである。本年度は、すでに国内油田の油層から獲得している原油分解メタン生成微生物群を対象として、分子生態学的・地球化学的解析技術によって反応経路と介在微生物の概要を解明した。具体的には、現場油層環境を模擬する高温高圧培養実験で集積したトルエン分解メタン生成微生物コミュニティから全DNAを抽出し、メタゲノム解析を行った。メタン生成菌としてはMethanothermobacter属古細菌やMethanosaeta属古細菌が検出され,バクテリアに関しては複数種の未培養細菌で構成されていた。このことから、深部地下油層環境ではこれらのバクテリアとメタン生成菌のsyntrophic networkを介した原油分解メタン生成反応が進行していることが示唆された。地球化学的解析に関しては、安定同位体トレーサー法でトルエンからメタンへと至る反応経路を探るために、13C-トルエンを培養系に添加し13C-メタンの生成を検証するとともに、その培養液から脂質成分を抽出し、ガスクロマトグラフ燃焼同位体比質量分析計 (GC-C-IRMS) とガスクロマトグラフ質量分析計 (GC-MS)で13C/12C比とマススペクトルを測定した。その結果、13C/12C比が顕著に高い脂質成分が数成分検出されるとともに、そのマススペクトルにおいて13C-トルエンに由来するフラグメントの存在が明らかになった。これらはトルエン分解メタン生成反応の中間代謝産物であると推定される。
2: おおむね順調に進展している
国内油層から獲得しているトルエン分解メタン生成微生物コミュニティについて、分子生態学的・地球化学的解析技術によって反応経路と介在微生物を解明するための重要な手がかりが得られたため。
トルエン分解メタン生成微生物コミュニティについて、分子生態学的・地球化学的解析技術による反応経路と介在微生物の解析を進める。13C-トレーサー法で検出されたトルエンの代謝産物を同定するために、マスワークスによるマススペクトルの詳細解析を行うとともに、中間代謝産物と推定された脂質成分を同定するため、標準物質を探索、あるいは合成する。原油分解メタン生成反応として実際に機能している代謝経路を特定するために、全RNAを対象としたメタトランスクリプトーム解析を行う。アルカン分解メタン生成微生物コミュニティについても、反応経路と介在微生物の解析を行う。
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