研究実績の概要 |
水が半結合を形成する条件を探るために、(H2O-X)+ラジカルカチオンクラスターの赤外スペクトルをイオン化ポテンシャル、プロトン親和力が異なる様々なX分子との組み合わせで観測し、ラジカルカチオンクラスターの構造と2分子間の結合形態を決定した。X分子のイオン化ポテンシャルが水分子に近づけば半結合の強度が増強され、プロトン親和力が大きくなるとH2O+と水素結合により結ばれる構造が有利になると予想される。 X=N2, CO, CO2, N2Oの組み合わせで新規にOH伸縮振動領域の赤外スペクトル観測を行い(X=N2O,CO2に関しては先行研究での不確定さを排した再測定)、MP2法(一部密度汎関数法)による安定構造計算及び調和振動計算結果と比較して、観測されたラジカルカチオンクラスターの構造を決定した。その結果、X=N2O, COで半結合が、X=N2, CO2で水素結合型が優勢となることが明らかとなった。既報のX=He, Ne, Ar, Kr, H2Oの結果と併せて、相手分子Xのイオン化ポテンシャル-プロトン親和力の2次元プロット内で水との半結合が水素結合よりも安定となる領域を確定した。その結果、相手X分子のプロトン親和力が水のそれよりも低く、かつイオン化ポテンシャルが水とは1.5eV以内の近接値を取ることが水素結合構造との競合に勝って半結合形成が実際に起きるための条件となることが分かった。更にこの領域内にも特異点が観測され、X分子のイオン化ポテンシャルだけでなく非結合性軌道の張り出し具合が半結合強度に影響を及ぼすことが、量子化学計算の結果から示唆された。
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