研究課題/領域番号 |
21H04674
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石内 俊一 東京工業大学, 理学院, 教授 (40338257)
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研究分担者 |
平田 圭祐 東京工業大学, 理学院, 助教 (80845777)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | イオン選択性分子 / イオンチャネル / イオノフォア / 冷却イオントラップ分光 / レーザー分光 |
研究実績の概要 |
以下の項目を実施した。 1)装置改良 現有装置では,エレクトロスプレーで生成したイオンを全てクラスター生成トラップに導入し,生成した様々なクラスターイオンから目的のイオンを後段の四重極質量分析器で選別しているが,このやり方だと,エレクトロスプレーで生成した目的外イオンが優先的にクラスターを生成してしまい,目的イオンのクラスターの生成効率が著しく低下することがある,また,多量体水和クラスターでは,様々な目的外イオンの水和クラスターとたまたま同じ分子量になることがあり,後段の四重極質量分析器で分けられない,等の問題がある。これらの問題を回避するために,クラスター生成トラップの前段にも四重極質量分析器を設置し,目的のイオンだけをクラスター生成トラップに導入する様に改良した。 2)バリノマイシンの水和クラスター これまで,1個の水分子が水和したクラスターの研究が進んでおり,バリノマイシンK+錯体とNa+錯体では水和構造が大きく異なることが分かっている(前者ではバリノマイシンに水和,後者ではバリノマイシンに包接されたNa+に水和)。これにさらに水分子を増やしていったときの構造変化の違いを明らかにし,バリノマイシンのイオンの包接・放出過程に基づいたイオン選択性のメカニズムを解明した。 3)水和構造の計算機シミュレーション法の確立 実験結果解析のために用いている計算手法の改良を行う。本研究で扱う複雑分子の水和クラスターの構造を計算するためには,多量の異性体 を考える必要があり,それらの構造を自動的に生成する方法が不可欠である。そこで,分子動力学シミュレーションにより溶質分子のコンフォメーション,水和位置,水和ネットワーク構造を自動的に探索し,量子化学計算によりそれぞれの赤外スペクトルをシミュレーションする方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界的な半導体不足で納品が遅れるなどのトラブルに見舞われたものの,計画した研究は全て実施し,良好な結果が得られている。論文発表も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1)装置改良 2重共鳴分光により異性体選別したスペクトルを測定するには,1本目と2本目のレーザーを照射する間で質量分析する必要がある。現在,冷却イオントラップに質量分析の機能を持たせ,2本のレーザーを冷却イオントラップに導入する手法を用いているが,この方法だと冷却イオントラップでの質量分解能が低いために,適用できる対象が限られている。そこで,1本目のレーザーは冷却イオントラップに導入し,その後の質量分析を後段の飛行時間型質量分析器に任せ,ここに2本目のレーザーを導入する様にする。その後,さらに質量分析して最終的なイオン検出を行う。そのため,現有の飛行時間型質量分析器をリフレクトロン型に改造し,途中でレーザーを導入できる様にする。 2)ビューベリシンのアルカリ金属イオン錯体の研究 ビューベリシンは環状のイオノフォアであり,そのイオン選択性については種々の報告があり詳細は確立していない。また,そのイオン選択性のメカニズムも明らかになっていない。そこで,まずは種々金属イオンを含む溶液にビューベリシンを添加し,生成した錯体のイオン量をエレクトロスプレー質量分析法により比較し,イオン選択性を明確化する。続いて,冷却イオントラップに捕捉した錯体の赤外スペクトルを測定し,C=O伸縮振動領域のスペクトルからビューベリシンの各種金属イオンへの配位の仕方の違いを解明する。 3)水和金属イオンを認識するイオンチャネルの研究 Na+やCa2+は水和エネルギーが大きいため,それらのイオンがイオンチャネルに取り込まれる際に,水和状態を保っていることが知られている。この様な水和金属イオンをどの様に認識しているのかを明らかにするため,これらイオンを選択するイオンチャネルの選択フィルタードメインの部分ペプチドと水和金属イオンとの錯体に注目し,赤外分光を用いてその選択メカニズムを解明を試みる。
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