本研究では、10 fsのDUVパルスで分子を励起状態に光励起して空間的広がりの少ない(分子構造の滲みの少ない)量子核波束を形成して化学反応を開始させた後、遅延時間をおいて10 fsのXUVパルスを照射して反応途上の分子から電子を放出させ、電子の運動エネルギーの解析によって電子状態変化と核波束運動を明らかにすることを目的とした。本年度は研究開始初年度であり、上述の実験研究を進めるための光源の準備を開始した。特に本研究では10fsの極端紫外光源構築に必須となる2つの技術的要素、すなわちレーザーパルスの圧縮と、高次高調波のパルス列から特定の次数の高調波のみを分離する二重回折格子分光器の設計と実装を行う必要がある。そこで、まず二重回折格子分光器を構築するための各種パラメータの算出と、必要となる真空ポンプ、真空ゲージ、真空対応のミラーホルダーの購入などを進めた。また、光電子のエネルギー分析に用いている磁気ボトル飛行時間型エネルギー分析器に関しても、これまでの飛行距離1.3 mを2倍に延長する設計変更と部品の発注を行い、高運動エネルギー領域におけるエネルギー分解能の向上を実現できるようにした。これと並行して、現有の光源であるパルス幅45 fsの極端紫外光とパルス幅サブ20 fsの真空紫外光を利用して、気相のエチレン分子やcis-スチルベン分子の光異性化反応に関する超高速光電子分光を行い実験データを得た。これらのデータは国際学術誌に報告できる質の高いデータであり、現在鋭意解析を行っている。本研究は特別推進研究の採択により短期間に中止となったが、その研究開発の内容はそのまま特別推進研究の一部として、現在精力的に継続・発展させていることを付記する。
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