研究課題/領域番号 |
21H04678
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
雨宮 健太 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (80313196)
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研究分担者 |
近藤 寛 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (80302800)
阪田 薫穂 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 博士研究員 (80514215)
鈴木 真粧子 (酒巻) 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (90598880)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 軟X線吸収分光 / 波長分散型 / リアルタイム観察 / 化学反応 / 電気化学反応 |
研究実績の概要 |
軟X線領域の蛍光収量波長分散型X線吸収分光装置を用いて,最大0.1気圧(10,000 Pa)のガス存在下で,表面化学反応のリアルタイム観察を行った。さらに,この手法に深さ分解X線吸収分光法(蛍光X線の出射角によって検出深度を制御し,深さ方向の情報を得る手法)を組み合わせて,深さ方向に進行する化学反応のリアルタイム深さ分解分析を実現した。この手法を用いて,コバルトの酸化反応を観察し,1 Pa程度の大気導入下においてはCo酸化物(Co3O4)が表面から0.5 nm程度の範囲で徐々に内部に浸透していくのに対し,大気を10 Pa導入することによって一気に1 nm近くまでCo3O4が生成する様子を明らかにした。また,Cuの酸化反応においては,500 Pa程度まではCuOが生成するのに対し,5,000 PaにするとCu2Oが徐々に生成することを見出し,これらの酸化物成分の深さ方向分布を解析している。 一方,電気化学反応中の電極表面の観察に蛍光収量波長分散型X線吸収分光を適用した。厚さ200 nmのSi3N4膜にPt電極を蒸着し,真空と水溶液を仕切った状態で真空側からSi3N4膜を通して波長分散した軟X線を入射し,発生する蛍光X線を同じSi3N4膜を通して真空側の結像光学系で検出器上に結像することによって,電極表面のX線吸収スペクトルをリアルタイム測定した。電位の掃引に伴い,酸素の吸収端において新たなピークが出現し,その強度およびエネルギー位置が変化する様子を観察した。 また,新たにCOMS検出器を導入し,バックグラウンドが従来の1/10以下に減少すること,および1秒以下の露光時間で連続測定が可能なことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,軟X線領域の蛍光収量波長分散型X線吸収分光法を確立し,ガス存在下での表面化学反応および溶液を用いた電気化学反応のリアルタイム観察に成功したため。また,新たに導入したCMOS検出器について,所期の性能を発揮することが確認できたため。
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今後の研究の推進方策 |
構築した反応観察システムを用いて,化学反応のリアルタイム観察による反応機構の解明を本格的に進める。具体的には,銀触媒によってエチレンからポリマーや殺菌剤,不凍液などの原料となるエチレンオキシドを合成する反応の機構を明らかにする。反応中に存在する2種類の酸素種(ElectrophilicおよびNucleophilic)のうち,前者はCarbonateと同定でき,これが活性種と推測されるが,現状で測定可能な0.001気圧程度では,Carbonateとエチレンから生成すると期待されるエチレンオキシドが観測できず,反応速度の解析も行えないために,活性種の決定に至っていない。そこで,より実際の反応条件に近い0.1気圧以上において,秒を切る時間分解能で反応を追跡する。さらに,XASの偏光依存性からCarbonateの配向を見積もることができるため,偏光スイッチングを利用して表面の化学種の配向をリアルタイムで追跡し,反応機構をより詳細に調べる。 また,溶液系の電気化学反応について,TiO2をベースとした水分解光触媒に着目し,電極電位および光照射の有無によるXASの違いを観測することで,光照射によって生じる活性種の同定を行う。
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