本研究では、遷移金属錯体の結合活性化能をカルボニル化合物へと展開し、古典的な反応とは異なる新触媒反応群の開発を目指した。各種カルボニル化合物について、下記の新反応の開発を達成した。 (1)アミド:アミド化合物のアミド部分のみをイソシアネートとして脱離させ、それ以外のフラグメントをカップリングさせる新触媒反応について、脱離したイソシアネートを補足する求核性部位を基質に持たせることで、アミド部分が分子内で転位する移動型フラグメントカップリング反応の基質展開、機構研究を実施し論文化した。 (2)エステル:エステル基からエーテル酸素原子だけを除去し、ケトンを合成するという新形式のフラグメントカップリングを達成した。パラジウム触媒によるC-O結合活性化と、光触媒によるPPh3のラジカルカチオン生成を経るホスホラニルラジカルのβ開裂反応が鍵となっている。 (3)酸フッ化物:昨年度開発した分子内カーボフルオロ化の展開として分子間カーボフルオロ化が進行する系を見出した。 (4)アシルシラン:炭素ーケイ素結合の活性化がパラジウムにより進行し、その後転位によりシロキシカルベン錯体が生成することを昨年までに発見していたが、その過程とイミンとの反応を組み合わせることにより、触媒的なβラクタムの合成が可能であることを見出した。さらに反応中間体であるシロキシカルベン錯体の単離、X線結晶構造解析に成功した。また、トリフルオロアセチルシランでも対応するシロキシカルベン錯体が生成し、シクロプロパン化やアレンへの付加が進行することを明らかにした。
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