研究課題/領域番号 |
21H04683
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小西 克明 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (80234798)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 金属クラスター / 自己組織化 / 配位子 / 動的共有結合 |
研究実績の概要 |
本研究では、クラスター集積組織体を配向・距離が制御された形で精密設計し、複数クラスター間でのシナジー効果によって発現する創発的機能を開拓することを目的としている。本年度は、様々な配位子保護金属クラスターを用いて、以下の3つの異なったアプローチからクラスター集積体の建造を試みた。 1)界面活性剤を構造制御剤とするクラスター集積化:カチオン性8核金クラスターを用いて、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)をはじめとする自己組織性をもつアニオン性界面活性剤との組み合せによって、クラスターを配向させる試みを行った。その結果、特定の媒体条件下において、顕著な発光増大(凝集誘起型発光)が観察され、特定の集積構造の形成が示唆された。透過型電子顕微鏡では、100nm程のサイズの球状ミセルが形成されており、その内部でクラスターが集積化しているものと考えられる。 2)配位子間相互作用に基づくアプローチ:金属クラスター表面に多数配置された配位子間での相互作用を分子間で制御できれば、特定の形態をもつ組織構造が得られる可能性がある。本年度は、疎溶媒性を有するフルオロカーボンユニットをもつ配位子をチオラート配位型Au25クラスターに導入し固体状態でのナノ構造を観察したところ、ナノファイバー構造が形成されることを走査型電子顕微鏡観察から明らかとした。 3)配位子間での共有結合架橋に基づくアプローチ:チオラート型Au25クラスターの外表面にチオラートアニオンを導入し、そこを起点とするクラスター間の架橋反応を動的共有結合の概念に基づいて制御することで、クラスターが高密度に充填されたポリマーを得ることに成功した。また、同じモノマーを用いて架橋条件を調整することで、形態、配列構造、吸着特性が異なるポリマーを得られることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、配位子保護金属クラスター自体がもつ優れた特性を超分子化学とリンクさせ、有機配位子・対イオンの自己組織化、金属間相互作用、動的共有結合特性等を活用して、配向・距離が規定されたクラスター組織構造を戦略的に構築、制御する方法論の確立を目指している。本年度は戦略的なクラスター組織体設計のために、1)外部構造制御剤となる界面活性剤の利用、2)配位子間での分子間相互作用の利用、3)動的共有結合の概念に基づいた配位子間での共有結合架橋、の3方向からの検討を進めたが、上述のとおり、いずれのアプローチにおいても、今後に展開可能な興味深い知見が得られており、おおむね計画通りに順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続きクラスター集積組織体の構築を行うとともに、「組織化された集積体ならではの特性」の開発を目指して、複数クラスター間でのシナジー効果によって発現する創発的機能を進める。具体的には、自己組織構造・形態の変化をクラスター固有の電子構造、光特性情報に転写、変換、出力するシステムを構築し、ナノ機能材料のボトムアップ設計に向けた革新的指針を確立することを目指す。1)の界面活性剤を外部制御剤として形成させたクラスター集積体については規則構造の形成の有無をX線散乱等から検討する。また予備的知見として、得られたクラスター集積体に特定の刺激を与えることで、ナノ結晶化が誘起され、同時に発光の顕著な増大が引き起こされることがみいだされつつある。この点について、構造学的、分光学的な観点から集積構造の同定を進めるとともに、その形成、解離の制御について検討する。また、2)のフッ素修飾配位子間の相互作用でえられたナノファイバー状のクラスター集積体は、条件によってより高次の集積体に成長することが、予備的に見いだされており、階層的な自己組織化が実現できる可能性がみえつつある。そこでこれらの超構造形成の駆動力、機構を解明するための検討を進める。3)の共有結合架橋クラスターポリマーについては、架橋条件の検討をさらにすすめることで、ナノスケールの構造制御の可能性を探るとともに、ナノ構造と機能特性(例えば分子吸着特性)との相関を樹立し、モノマーレベルでの分子設計にフィードバックさせる。
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