研究課題/領域番号 |
21H04686
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片山 佳樹 九州大学, 工学研究院, 教授 (70284528)
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研究分担者 |
馬場 英司 九州大学, 医学研究院, 教授 (00315475)
森 健 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70335785)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | がんコンパニオン診断 / 酵素増感法 / 膜抗原 / フローサイトメトリー / ELISA |
研究実績の概要 |
本研究では細胞膜抗原の高感度検出法の開発と、それを用いたがんコンパニオン診断の開発を目的としている。2021年度は、これまでに開発した酵素増感システムであるCLAMP法をまず、成人T細胞白血病のマーカーであるCCR4の検出に適用した。株化細胞においては、従来の蛍光抗体法によるフローサイトメトリー法と比べ、大きく感度を向上させ、明確な検出に成功した。しかしながら、実臨床サンプルでは、バックグラウンドが大きくなり、感度向上の幅が大きく低下した。この原因を種々調査した結果、検出シグナル増幅に用いるレポーター酵素の活性がヒト細胞に内在することが原因であることが明らかとなった。 上記の原因を克服するには、ヒト細胞中に内在活性のない酵素が必要であるが、現行の臨床診断に適用される酵素はいずれもヒト細胞に活性が内在することが明らかとなった。すなわち、ヒトに内在活性が存在せず、しかも、診断に適用可能な活性やその他の性能を有する酵素が必要であるが、そのような酵素探索の研究はこれまでに類がないことが明らかとなった。そこで、ヒトに類似性がなく、実用に足る活性を有し、しかも基質特異性の高い酵素を植物や細菌類のゲノムデータを利用して探索した。その結果8種の新規候補酵素をみいだした。これらの酵素はいずれも糖加水分解酵素であり、それらの遺伝子を取得し、大腸菌から発現に成功し、ニトロフェノール型の酵素異質を合成して活性を評価したところ、いずれも診断用途に十分な活性を有しており、しかもヒトを始めとする哺乳類細胞には内在活性が全くないことが分かった。 特にα-アラビノフラノシダーゼ、α-ラムノシダーゼ、β-キシロシダーゼは、非特異吸着のなさ、安定性なども極めて優れており、この3種を用いての多色検出系を構築することとした。また、これら酵素を用いる検出法に関して特許を申請した。現在特異的蛍光基質の合成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、酵素により反応することで細胞への反応性を獲得する独自の基質を開発するだけで目的を達成できると考えていたが、実際の診断への適用で、予想外の内在活性が問題となった。そのため、計画を変更し、この問題を解決するための新規酵素の開発から実施する必要が生じた。一方、その酵素の探索と開発については順調に進めることができ、これまで全く存在しなかったヒト直交性酵素化学という研究カテゴリーを確立する契機となった。また、実際に実用に供し得る新規酵素を複数種取得することができ、全く想定していなかった新しい診断システムの開発が可能となった。これは、今後の研究の進展に大きく寄与するものであり、合成の難易度が高いCLAMP法以外にも、Cell ELISAなどへの適用も視野に入ってきており、研究の大きな広がりと進展を可能にする成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に、ヒト直交性酵素化学を進め、実用性のある複数種の酵素の取得に成功したことから、今後はこの酵素を利用した新しい診断システムの開発が可能となった。そこで、今後は、まず、これらの酵素の特異基質を、多波長域の蛍光色素を利用して開発を進め、それらを用いた複数種膜抗原の多色同時検出系へと発展させ、実用性のある超高感度膜抗原検出システムを確立する。 また、これまでの検討で、実用への適用には、抗体への酵素の標識手法や、培地の選択、抗体での細胞の処理時間、洗浄時間と回数などが大きく影響することが明らかになってきており、これらの因子の最適化を逐一検討していく。特に、これまで2次抗体に酵素を標識する間接抗体法を採用していたが、これでは洗浄回数が増え、実サンプルでは細胞死が無視できないことから、直接一次抗体に酵素を標識する手法を検討を行う。また、抗体への酵素の修飾法についても、これまで採用していたビオチンーストレプトアビジンシステム以外の架橋剤を用いる化学修飾法などの検討を進める。
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