研究課題/領域番号 |
21H04691
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
前田 勝浩 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90303669)
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研究分担者 |
西村 達也 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (00436528)
谷口 剛史 金沢大学, 薬学系, 助教 (60444204)
廣瀬 大祐 金沢大学, 物質化学系, 助教 (60806686)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | キラル高分子 / らせん / 重合触媒 / ポリアセチレン / 機能性高分子 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
本研究では、構造の厳密に制御されたポリジフェニルアセチレン(PDPA)の簡便かつ適用範囲の広い新しい精密合成法を開発し(課題1)、その合成技術を基盤として、ラセン高分子とナノカーボンの機能と構造特性を融合させたPDPAの多機能性ヘリカルナノカーボンとしての機能を明らかにする(課題2)ことを目的としている。 (課題1) 本年度は、モリブデン(Mo)およびニオブ(Nb)に焦点を当ててジフェニルアセチレン類(DPA)の重合を検討した。MoCl5と助触媒からなる触媒系が、エステル基などの電子吸引性の官能基を有するDPAの重合に極めて有効であり、室温でも重合反応が進行し、高分子量のPDPAが高収率で得られることを見出した。また、本重合が、従来提唱されてきたメタセシス機構ではなく、移動挿入機構で進行し、高いcis-立体規則性のPDPAが生成することを明らかにした。さらに、NbCl5を用いたDPAの重合が、PhSiH3を助触媒として用いることによって、非常に効率よく進行することを見出した。特に、従来の触媒系では重合が困難であった電子供与性のアルコキシ基を有する対称置換型DPAからも高分子量のPDPAが得られた。また、本触媒系を用いた重合反応が、低原子価Nb種による環拡大機構で進行し、高いcis-立体規則性を有する環状のPDPAが生成することを明らかにした。 (課題2) 本年度は、「ラセン状ポリジフェニルアセチレンを用いた情報可視化システムの開発」に注力して取り組んだ。側鎖にカルボキシ基を有するPDPAへのらせん誘起・記憶の手法と特定のキラルアミンとの縮合によるアミド型PDPAへの変換を組み合わせることによって、キラルな第一級アミンだけでなく、キラルな第二級および第三級アミン、カルボン酸についても、そのキラリティを色調変化により識別可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2つの研究テーマ群(課題1、課題2)に分けた研究体制で進めている。研究実績の概要にまとめたように、課題1と課題2の両方に関して、概ね研究計画に掲げた研究成果が得られている。 課題1では、研究計画に掲げたモリブデン(Mo)系とニオブ(Ta)系触媒を用いたジフェニルアセチレン(DPA)の精密重合法の開発に関して、期待通りの一定の研究成果が得られた。 課題2では、ラセン状ポリジフェニルアセチレン(PDPA)の機能の開拓に関して、研究目的に3つの研究項目を掲げている。今年度、特に注力した「ラセン状ポリジフェニルアセチレンを用いた情報可視化システムの開発」に関しては、期待通りの一定の成果が得られており、順調に進んでいる。「ラセン状ポリジフェニルアセチレンを用いたスイッチングマテリアルの開発」および「ラセン状PDPAを用いたスピントロニクス材料の開発」の2項目に関しては、来年度注力をして取り組む必要がある。 以上を総括し、全体的には概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2つの研究テーマ群(課題1、課題2)に掲げた研究項目に対して、今後の推進方策を以下に示す。 (課題1)構造の厳密に制御されたポリジフェニルアセチレン(PDPA)の精密合成法の開発 官能基許容性に優れ、分子量の制御された精密重合を可能にするジフェニルアセチレン(DPA)類の重合触媒系の開発を行う。 これまでにエステル基などの官能基を有するDPAの重合に有効であったタングステンやモリブデンなどの遷移金属触媒ついて焦点を当てて検討を行う。重合活性を維持したまま活性種の安定性を向上させることを目指して、モノマーの配位空間を柔軟に調節可能な多座配位子を設計し、幅広いモノマーに適用可能なジフェニルアセチレン類の精密重合法を開発する。 (課題2)ラセン状PDPAの機能の開拓 ラセン状ポリジフェニルアセチレン誘導体を合成し、その構造特性を活用した次の3項目の機能開拓を行う。 「2-1. ラセン状PDPAを用いたスイッチングマテリアルの開発」:前年度までに開発したPDPAの合成法を活用することによって、修飾シリカゲル上に共有結合を介して末端のみでPDPA鎖をシリカゲル表面に固定化する新手法を開発する。さらに、PDPA鎖共有結合を固定化することによって、スイッチング可能なキラル固定相の実現を目指す。「2-2. ラセン状ポリジフェニルアセチレンを用いた情報可視化システムの開発」:高分子反応によって側鎖に共有結合を介して導入することを必要としないラセン状ポリジフェニルアセチレンを用いた様々なキラル化合物のキラリティの可視化システムを開発する。「2-3. ラセン状PDPAを用いたスピントロニクス材料の開発」:末端に硫黄官能基を有するPDPAを合成し、これらを金基板に配列させたデバイスを作製することにより、PDPAのスピントロニクス材料としての性能を評価する。
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