研究課題/領域番号 |
21H04695
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
|
キーワード | 蓄エネルギー機能 / 双安定性 / 実践的MI / 水素キャリア高分子 / Liイオン伝導体 |
研究実績の概要 |
電気や水素などの二次エネルギーの蓄積機能を発現する高分子の設計に関する基本的考え方である「双安定性」の概念を,実践的MIの手法も取り入れながら拡張することで革新的エネルギー変換機能を担う「有機エネルギーマテリアル化学」を確立する方針に沿って継続して取り組んだ。キーワードである「双安定性」とは,蓄電物質では酸化・還元の両状態,水素貯蔵物質では水素付加体・脱離体の化学的安定性を指す。蓄電機能を発揮させるには,分子レベルの酸化還元の可逆性に加え,厚みを持った物質で双安定性を実現することが必須の要件である。このような電荷蓄積の考え方を水素貯蔵に適用し,水素付加体・脱離体の双安定性を持たせることにより,新しい水素キャリア高分子を次々と創出している。 本年度は特に,エネルギー蓄積密度の向上に資するレドックス当重量や質量水素密度を因子とした分子設計の確立と,具体的な高分子創出に注力した。双安定性に立脚した分子設計からは出力密度に関わる制御因子を導くことができないため,出力を向上させるための有効な手段や考え方を確立することを目指した。以下に概要を述べる。 エネルギー変換物質における出力 (パワー密度) に関わる因子を解明するため,活性部位の電極反応速度定数や自己電子交換の二次反応速度定数を因子とした,いわゆる平均場近似に基づく分子設計の方法論を明確にした。例えば,有機二次電池の潜在的優位性である高いパワー密度 (LIBの約100倍以上に当たる10000 W/kg超) を実現するには, 電極反応速度定数の大きいレドックス席の適用が極めて有効であることが多くの具体的事例から明らかになった。また,水素キャリア高分子の応答はこれまで数時間を要し,パワー密度に関わるレート特性の向上が課題となっていたが,インダノン/インダノールを反応部位とすることにより,温和な条件下でも10倍以上の出力を達成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全体方針である電荷や水素の可逆的蓄積を担う高分子の動的描像を通した高速・高密度エネルギー変換を実現する化学構造の追求に沿って,本年度は下記の具体的成果を得た。これらは,電荷・水素の輸送および蓄積に関わる電気化学的双安定性と平均場近似の従来概念を拡張しうる,蓄エネに関わる非平衡過程の物理化学の探求につながり,従来限界を打破した高出力特性を発揮しうる斬新な蓄エネ物質の設計法を掴んでおり,当初の計画を超えた成果を確立することができた。 これらの成果を基盤とし,双安定性もった無定形高分子におけるエネルギー変換過程 (非平衡系) で誘起される過渡的秩序構造 (散逸構造) を広く探求することで,新しいエネルギー変換の学理構築と新材料の提案につながる「有機エネルギーマテリアルの化学」の確立に向け,着実に成果を集積している。以下に,本年度の進捗状況を具体的に説明する。 1. 電気エネルギーの高速蓄積に関わる新概念の提案と実証:無機酸化物活物質と電荷蓄積高分子のハイブリッド電極において,微量の電荷蓄積高分子が電子移動メディエータとして働き,無機酸化物の高速充放電を担うことを見出した。この方法は,これまで打つ手の乏しかった無機酸化物活物質の高出力密度化に向けた一般性ある方法論を提示するものであり,酸化還元電位を変えた多様なメディエータを合成してその効果を電池特性から定量的に解明することにより,電位駆動のメディエーション機構を初めて明確にすることができた。 2. 高分子による水素貯蔵の学理構築と深化:キノキサリンやフルオレノン類似の芳香族ケトンをはじめ,上記の実績概要でも述べたインダノン/インダノールなど,多様な水素貯蔵席に展開し,水素付加・脱離のエネルギー収支と速度論的解析から,水素キャリアとしての利得を高め,室温から穏和な加温域で高速動作する水素キャリア高分子の利点を際立たせることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度において,研究が計画以上に進展したことを受け,今後は研究目的である「有機エネルギーマテリアルの化学」の確立に向け,以下の切り口で当初の計画を前倒しして展開したい。 (1) 高レートの蓄エネルギー物質の開拓:液晶Liイオン伝導体やミクロ相分離制御された燃料電池用プロトン伝導性高分子膜,パーコレーションネットワークに基づく電荷蓄積高分子の高出力炭素複合電極など,蓄エネ関連材料としての優れた出力特性が電子やイオンの移動に適った静的秩序構造に立脚する例を参考に,高レートを担う蓄エネ物質の設計原理を明確にする。本研究でこれまで明らかにした双安定性を有する無定形構造に対し,新たに秩序構造を動的に誘起する方法を検討し,出力密度と蓄積密度を両立させた革新的蓄エネ物質へ展開する。このような動的秩序構造を蓄電物質と水素キャリア高分子の両方で検討し,パワー密度の飛躍的向上を達成する。 (2) 実践的マテリアルズインフォマティクスの展開:上記のような秩序構造を作り込むための手がかりを,機械学習を組合せたLiイオン伝導体の探索において掴んだ知見をもとに展開する。現在,LIBの開発競争が激化する中で,全固体電池が究極の存在として脚光を浴びており,その鍵を握る全固体LIB用電解質について,Liイオン伝導度をいかに高めるか,酸化物,硫化物,高分子など様々な材料で競争が繰り広げられている。代表者は,これまで数百本の公開論文から,分子構造や複合比率,誘電率,各種相互作用など1万件以上のデータを抽出し,それらの組み合わせと,リチウムイオン伝導度や活性化エネルギー,Liイオン輸率との関係を機械学習するモデルを独自に開発している。これを,高レートの蓄エネ物質開拓に駆使し,転移学習の方法も取り入れながら,多様な物性を化学構造から予測できる機械学習モデルを確立し,所望の予測物性を示す高分子の設計に役立てる。
|