研究課題/領域番号 |
21H04698
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藪内 直明 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80529488)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | アニオンレドックス |
研究実績の概要 |
低炭素社会実現へと向けて、高効率でエネルギーの貯蔵が可能となる蓄電池の高性能化・低コスト化が求められている。本研究課題では、蓄電池材料の設計開発指針の革新と新材料の創製を実現するため、従来材料で利用されているカチオン種による電荷補償ではなく、その代わりとしてアニオン種による電荷補償を利用し、さらに、電極ホスト構造の骨格としても従来の高結晶性層状構造から脱却し、三次元の安定な骨格構造と界面濃度の高い準安定相に立脚した材料設計指針の革新を実現する。本年度は岩塩型のMn系材料に着目し、その粒径を制御することで、高容量材料となることを明らかにしている。また、この材料はマンガンのカチオンレッドクスだけではなく、アニオン種の電荷補償により高容量が得られることも明らかにしている。粒子サイズと材料組成の最適化により、寿命に課題のあったアニオンレドックスの安定化向上にも成功しており、今後の研究の展開によりさらなる高容量化・高性能化が期待できる。従来層状構造材料とは異なる、新規材料設計指針の構築により、リチウム・ナトリウムイオンといった正電荷イオンの高密度電荷蓄積と固体中の高速移動を実現する学術的な方法論の確立にもつながることが期待できる。従来の材料設計指針では決して到達不可能な高エネルギー密度、高入出力特性を有する次世代の蓄電池材料の創製は、将来的な再生可能エネルギーに立脚した低炭素エネルギー社会構築の実現につながる研究成果であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で取り組んでいるアニオンレドックスを利用する電池材料は申請者が 2015 年以来研究を続けている課題である。従来材料と比較して 1.5 倍程度の高いエネルギー密度が得られるという特徴がある一方で、研究初期の段階ではその可逆性の低さやイオン輸送速度が遅いといった課題が存在していた。しかし、材料の化学組成の最適化、また、材料の粒子サイズの最適化などを進めることで、アニオンレドックスの可逆性が大きく向上可能であることがわかりつつある。また、イオン結合性の高い Ti や Nb が存在することで、アニオンレドックスの可逆性が大きく向上することもわかりつつあり、不可逆な酸素脱離が進行する因子についても解明が進みつつある。これらの研究成果は Ti と Mn といった、資源が豊富な元素から構成された高エネルギー密度電池実現に繋がるものであり、商用のリチウムイオン電池で用いられている Co や Ni といった、資源埋蔵量に問題を抱える元素を全く利用することないことから、電池構成材料の資源の汎用性向上に繋がることが期待できる。また、カチオンレドックスから脱却し、アニオンレドックスを利用することで、より汎用的な元素から構成された低コスト・高性能を両立可能な電池実現に繋がることが期待でき、今後、さらにアニオンレドックスに関する知見が深まれば、さらなる電極特性の向上に繋がる可能性を有しており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
アニオンレドックスの可逆性を支配する因子解明と学理構築を実現するため、様々な組成の材料におけるアニオンレドックスの安定性を評価する。Nb や Ti は酸素とイオン結合性が高いことから、酸素との軌道的相互作用は少ないと考えられる。一方、Co や Ni といった軌道相互作用が強く共有結合性の高いイオンとの結合と比較して、Nb や Ti と結合している酸素はより多くの電子を保持できることになるため、アニオンレドックスが活性化しやすいという利点に繋がる。一方、過剰なアニオンレドックスは酸素の正孔濃度が上昇し過ぎる結果として、酸素の二量体の形成と不可逆な酸素脱離に繋がることもわかりつつある。このような知見を元に、さらに、結晶構造・電子状態・界面状態などについて詳細な解析を進め、アニオンレドックスの活性化と不安定化に影響する因子解明、また、その可逆性向上を実現するための方法論を確立する。さらに、材料の界面構造の影響についても詳細に調べ、結晶子サイズと粒界濃度がリチウム・ナトリウムイオンといった正電荷イオンの固体中の輸送速度に影響する因子について学術的な理解を深める。それらの成果を基に界面構造を高度に制御する手法の開発、そして、イオンの高速輸送と高密度電荷蓄積の両立を実現する材料合成に繋げる。これらの新しい学理と知見に立脚して、40 年間に渡り使われていた従来材料設計指針から脱却し、同時に、次世代の蓄電池材料の設計指針の確立、及び、次世代高エネルギー密度材料の創製に繋げる。
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