研究課題
Snを用いたペロブスカイト太陽電池の高性能化に対して、1)薄膜の結晶成長速度制御による欠陥構造の抑制技術、2)ペロブスカイト層の表面パッシベーション技術、3)電荷回収層との界面での電子・構造制御技術の開発というアプローチで取り組んできた。薄膜の結晶成長に関しては、用いる溶媒と配位性の添加剤により結晶成長を制御できることを見出し、これを用いた独自の成膜法の開発に取り組んでいる。特に材料の酸化問題から、従来のDMSOの使用を回避した新しい溶媒の探索を進めた。ペロブスカイト層の表面を独自の有機アンモニウム塩でパッシベーションすることで、開放電圧が向上することを見出した。基礎物性としては、Sn-Pb混合系のペロブスカイト薄膜でも、キャリア寿命が7μsを超えることを実証し成果を発表した(Che. Sci. 2021, 12, 13513.)。さらに、ペロブスカイト薄膜の上下表面のパッシベーション法を開発し、これによりSn-Pb混合系で23.6%の世界最高効率を達成した(Energy & Environ. Sci. 2022, in press. プレス発表)。開放電圧は最大で0.91 Vと、バンドギャップからのロスが0.34 Vにまで抑制でき、ほぼ熱力学的な理論限界値を達成していることを明らかにした。さらに、独自の単分子系正孔回収材料を開発し、これを用いることで、逆型構造のPb系ペロブスカイト太陽電池で高い光電変換効率が得られることを見出した。さらに、これを用いることで、デバイスの耐久性も向上することを見出した。具体的には、3つのアンカーユニットをもつ有機π共役系化合物を設計・開発し、これを用いた逆型構造のペロブスカイト太陽電池を作製したところ、23%を超える光電変換効率が得られた。また、連続光照射実験(MPPT)でも100 後でもほとんど劣化が見られず、高い安定性が得られた。産業技術総合研究所(AIST)での厳密な測定でも21%の光電変換効率として認証値を得ることに成功している。
1: 当初の計画以上に進展している
計画通り検討をすすめ、それぞれのアプローチが太陽電池特性の高性能化に有効であることを見出すことができた。特に、表面パッシベーションおよび単分子電荷回収層材料は、予想を上回る効果を示し、ペロブスカイト太陽電池分野に大きなインパクトをもたらす成果であると言える。今後、各要素技術の最適化を進めることで本研究の目的が達成できるものと考えられる。
初年度に見出した各要素の有用性をもとに、材料と手法の最適化を進める。溶媒の配位特性や結晶化速度など、材料の特性に基づいて独自の溶媒と添加剤の開発を行い、高品質なSnペロブスカイト薄膜の作製法を開発する。表面パッシベーション法についても、これまでに開発した材料の分子構造をもとに、結晶構造解析によるモデル構造の解析を行いながら最適化を進める。単分子系電荷回収材料に関しては、達成したデバイスの高効率化の結果をもとに、導電性基板の仕事関数に及ぼす効果に着目して、太陽電池の動作原理および材料の設計指針の提唱を行う。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
Energy Environ. Sci.
巻: 15 ページ: in press
10.1039/D2EE00288D
Chem. Sci.
巻: 12 ページ: 13513-13519
10.1039/D1SC04221A
https://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~wakamiya/index.html
https://www.kuicr.kyoto-u.ac.jp/sites/