研究課題/領域番号 |
21H04704
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荘司 長三 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90379587)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | ヘム / シトクロムP450 / 金属酵素 / 酸化反応 / ガス状アルカン / デコイ分子 / 菌体内反応 / 外膜蛋白質 |
研究実績の概要 |
巨大菌由来のシトクロムP450BM3を用いて,不活性な有機基質を高効率に水酸化可能な,強力なバイオ触媒系を創出することを研究目的として研究を進め、P450BM3の本来の対象基質である長鎖脂肪酸に構造を似せた「デコイ分子」の改変により小分子アルカン類の水酸化の高活性化に取り組んだ。本年度は、菌体内反応の活性を強化するために、デコイ分子の菌体内への取り込みについて調べ、デコイ分子が通過する外膜蛋白質を構造予測に基づいて改変することで、デコイ分子の取り込み能を大幅に強化した大腸菌反応系の開発に成功した。これまでに菌体を用いる反応では利用できなかったデコイ分子を用いる反応が可能になり、反応収率の大幅な改善と、高いエナンチオ選択制を実現した。さらに、デコイ分子の改変の過程で開発に成功した結晶化促進デコイ分子を利用する結晶構造解析により、基質とデコイ分子を同時に取り込みかつ遷移状態アナログとしてヘムの鉄の代わりにモリブデンをもつ合成ポルフィリンを結合したP450BM3の活性部位の可視化に成功した。遷移状態アナログを用いることで、水酸化反応の位置選択制とエナンチオ選択制を結晶構造解析によって予測可能であることを明らかにした。ヘムの合成ポルフィリンの置換に関しては、ヘムの鉄をマンガンに置換したP450BM3が酸素分子を活性化して水酸化反応を行うことを明らかにするとともに、鉄との反応性の違いが水酸化反応でのラジカルリバウンドの速度の違いで説明できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
P450BM3を過剰発現させた大腸菌を用いてデコイ分子を利用する反応を行うことができるが,菌体膜を透過できるデコイ分子は限られていたが、デコイ分子が大腸菌の外膜に存在するチャネル蛋白質のOmpFを通過していることを明らかにした。OmpFの穴のサイズや電荷を変更した改変OmpFを作成し、ほとんどすべてのデコイ分子が通過できる大腸菌の反応系を構築した。これまでに開発した高活性デコイ分子やエナンチオ選択性を制御可能なデコイ分子を菌体内に送り込むことが可能となり、反応の変換効率の大幅な改善に成功した。マンガンを有するP450BM3では、マンガンを用いる酸素分子の活性化が可能であることを世界に先駆けて実証した。
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今後の研究の推進方策 |
菌体内反応の活性を大幅に改善することが可能な改変外膜蛋白質を持つ大腸菌の開発に成功したが、ベンゼンのフェノールへの変換や比較的サイズの小さい芳香族化合物の水酸化に適用しただけであり、今後は他の基質へ適用範囲を拡大する。特に、コレステロール骨格を持つ基質やテルペン系の基質などへの適用を進める。また、高い膜透過性を示す新規デコイ分子を開発し,長鎖脂肪酸を水酸化するP450を有するバクテリアを用いるバイオリアクターの開発を進める。新規デコイ分子の開発では、これまでのデコイ分子の基本構造とは異なる構造や連結様式を持つデコイ分子を開発し、反応の高活性化にも取り組む。 新規デコイ分子の開発による高活性化に取り組むとともに,変異導入による反応場改変と組み合わせを検討し、デコイ分子の優位性をさらに引き出す研究を進める.最も活性の高いデコイ分子の存在下で,P450BM3をランダム変異導入とスクリーニングによって進化させることで,圧倒的な活性を示す「P450BM3変異体-デコイ分子」反応システムを構築を目指す.デコイ分子存在下では,これまでに報告されてきた変異体とはまったく異なる「別の変異体群」が選別されるものと考えており、これらは,これまでに特許化されたP450BM3変異体群とは異なるため,デコイ分子存在下でのみ高活性化する変異体群として特許化し、実際の利用に耐えるバイオ触媒系の開発を進める.
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