研究課題/領域番号 |
21H04709
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤本 ゆかり 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00362616)
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研究分担者 |
松丸 尊紀 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (90636549)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 複合脂質 / 化学合成 / 免疫調節 |
研究実績の概要 |
生体内の多様な信号伝達において重要な役割を果たしている複合脂質-糖質は、純粋な単一化合物が天然からも合成的にも入手困難な場合も多く、詳細な生物活性および機能が未解明な分子が多い。本研究においては、自然界あるいは生体内の分子あるいは自然界における構造変換により生じた分子について、感染防御、炎症、アレルギー応答、免疫寛容等の、生体機能に影響を与える可能性のある作用に焦点を当て、分子認識および構造活性相関を基にした免疫調節機能の解明と新規分子創製を目指している。 本年度については、まず、これまで本研究課題で新たに見出した、特異な脂質構造をもつリン脂質および糖脂質について、関連化合物の合成とともに機能解析を行った。特に脂質抗原提示機能を示す複合脂質については、CD1dのほかCD1a分子への結合親和性を示す化合物および脂質型の自然免疫受容体リガンドについて関連化合物の合成と解析を行うなど、感染防御、炎症等の生体機能に影響を与える可能性のある作用に焦点を当てた解析を進めた。また、脂質抗原提示に関わるとともに自然免疫受容体リガンドとしての機能を示すなど、複数の免疫調節性ターゲット分子によって認識される化合物について、サイトカイン誘導の選択性等、免疫調節機能の詳細を解析することにより、生体内での複雑な機能解明を進めた。脂質抗原提示に関わる分子間相互作用については、脂質側の構造依存的な安定性の向上を共同研究の成果として見出すとともに、脂質抗原提示分子との複合体に関する計算的な解析を進め相互作用についての相関を見出した。ペプチドー脂質抗原の相関解析のための複合体合成と解析も併せて進めた。 以上の成果に基づき、抗原提示細胞における複合的な相互作用による機能の解析および利用のための基盤開発についても展開しており、リピドミクス解析および脂質ケミカルスペース探索基盤として貢献すべく解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題研究計画で予定した複合脂質の合成法確立、関連化合物の合成および活性評価については引き続き順調に進行し、非常に高い選択的活性化あるいは抑制的活性を示す分子を見出し、各々のターゲット因子との相互作用、機能調節作用および細胞内のリガンド挙動等についての解析を進めた。 すなわち、内在性分子あるいは生体内で一過的に生成する分子群、および環境中に存在する類似構造、活性制御を志向して設計した関連複合脂質分子について、効率的な合成法確立を行い、他に例のない複合脂質分子ライブラリ構築をさらに進めた。特に脂質抗原提示機能を示す複合脂質については、CD1dのほかCD1a分子への結合親和性を示す化合物および脂質型の自然免疫受容体リガンドについて関連化合物の合成と解析を行ったほか、自然免疫受容体、特に、C型レクチン受容体に認識される多様なリガンドの合成に成功し、非常に高い自然免疫活性化あるいは阻害活性を示す化合物を見出した。 一部の分子については、複数の自然免疫活性化因子に関わる複雑な機能発現を示すことを見出したほか、内在性分子の機能としてこれまで全く未知であった新規自然免疫受容体リガンドとしての機能の発見にも成功し、さらに、類縁構造の探索を進めて脂質構造の差異に基づく構造活性相関を発見した。得られた成果に基づき、細胞内機能のイメージングによる解析や免疫調節分子の創製および包括的な理解を目指した解析を進めるとともに、リピドミクス解析および脂質ケミカルスペース解析への貢献のため基盤データ整備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題により見出された新規な自然免疫受容体リガンドや高活性あるいは高選択性の脂質抗原など、興味深い活性を示す分子群について、その生体内での機能について検討を進めるとともに、免疫調整機能を示す新規分子創製を行う予定である。 特に、内在性分子関連化合物の中に特定の免疫調節性のターゲット分子に非常に強い分子間相互作用を示す分子群が存在することを発見しており、特にこれらの分子については、選択的な活性化あるいは機能の抑制において新たに見出した機能に関し、さらに統合的理解のための情報解析について共同研究を含めた解析を進める。新しい自然免疫受容体リガンドとしての機能を発見した分子群については、免疫活性化あるいは抑制、双方の機能についての相関が見られており、脂質抗原提示との相関を含めた解析とともに、活性分子を用いた積極的な機能制御の可能性を探索する。 本研究で見出した活性分子に関しては、ターゲット分子の細胞内での機能解析を目指した分子プローブ合成と細胞内挙動の可視化について、これまで確立した実績に基づきさらに詳細な解析と応用展開を進める。また、高い選択性を示す免疫調節性分子については疾患をターゲットした展開を考慮した機能解析も進める。
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