研究課題/領域番号 |
21H04718
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松田 一彦 近畿大学, 農学部, 教授 (00199796)
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研究分担者 |
丹羽 隆介 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 教授 (60507945)
加藤 直樹 摂南大学, 農学部, 准教授 (90442946)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | ニコチン性アセチルコリン受容体 / 機能的発現 / 膜電位固定法 / ネオニコチノイド / 微生物二次代謝物質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、昆虫の性別、生育段階および神経組織の違いによるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のサブユニット構成とそれを制御する補助タンパク質因子をつぶさに明らかにし、それぞれのnAChRに対する殺虫剤ネオニコチノイドおよび関連殺虫剤、さらにはnAChRを標的とする微生物産物等の作用機構を明らかにすることである。これまでに、ショウジョウバエ由来のサブユニットが形成するnAChRをアフリカツメガエル卵母細胞に網羅的かつ機能的に発現させ、電気生理学的手法の一種である膜電位固定法を用いて、それぞれのnAChRに対するネオニコチノイドの活性を評価した。また、当該活性の変動に対するサブユニット構成比や機能的発現を補助するタンパク質の寄与の程度を明らかにした。また、セイヨウミツバチの神経組織の違いに応じたnAChRのサブユニット構成や補助タンパク質因子の変化について明らかにした。さらに、その他の昆虫種についてnAChRの機能的発現技術について検討するとともに、昆虫と同じく機能的発現に補助因子を必要とする無脊椎生物のnAChRに選択的に作用する微生物二次代謝物質や、nAChRに類する構造をもつ昆虫のリガンド作動性イオンチャネルにおける微生物二次代謝物質の活性発現機構についても明らかにした。 一方、本研究を進めるためのケミカルツールとして昆虫脱皮ホルモンであるエクジソンの生合成を選択的に調節する糸状菌二次代謝物質の構造活性相関を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的にうち、nAChRのネオニコチノイド感受性に対するサブユニットの種類と構成比および機能的発現補助因子の影響については、ショウジョウバエを用いて詳しく解析することができた。とくにその中で、定量的にこうした影響を評価する新たな方法を確立できたことは評価に値する。一方、セイヨウミツバチのnAChRの脳内変動については、検討中の段階にあり、総合的な理解には至っていないので、2022年度この課題の達成に注力しなければならない。nAChRや関連受容体を調節する二次代謝物質の作用機構の研究については、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究によって、ショウジョウバエにおいてnAChRのネオニコチノイド感受性を促進するサブユニットと減少させるサブユニットを見出すことができた。この知見と同様な現象が、有益昆虫を含めて他の昆虫種でも成立するのか検討する。また、nAChRの機能的発現を促す補助タンパク質が、nAChRのサブユニットの構成比率に影響するのか調査する。これらの研究と並行して、セイヨウミツバチでnAChRサブユニットと補助タンパク質の発現量を定量的に解析し、本種の行動・学習に深く関与するnAChRを絞り込む。そして、それらのnAChRをアフリカツメガエルの卵母細胞等で機能的に発現させ、ネオニコチノイドおよび類似の作用機構をもつ合成殺虫剤の作用機構を解析する。 こうした研究によって得られる知見は、発達段階の違いによって影響を受けると予想される。そこで、遺伝学的手法あるいは化学物質を用いて昆虫の変態を制御しながら、この予想を証明する。 これまでの研究によって、糸状菌の二次代謝物質の中からショウジョウバエのエクジソン生合成を阻害する物質と、nAChRを阻害する物質を見出している。それらの構造活性相関解析をもとに、昆虫の変態あるいはネオニコチノイドとは異なる作用機構でnAChRを低濃度でかつ高選択的に制御する化合物を開発し、活用することで、ネオニコチノイドおよび類縁化合物の作用機構の理解を深める。
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