昆虫とウイルス間を水平伝播する寄生蜂致死タンパク質の適応的意義と殺蜂機構の解明

2021 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 21H04723
• 研究機関: 東京農工大学
• 研究代表者: 仲井 まどか 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60302907)
• 研究分担者: 中松 豊 皇學館大学, 教育学部, 教授 (00456617) ; 鈴木 絵里子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (00468513) ; 池田 素子 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20262892) ; 石井 一夫 公立諏訪東京理科大学, 工学部, 教授 (60449238) ; 高務 淳 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (80399378) ; 伊藤 克彦 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80725812)
• 研究期間 (年度): 2021-04-05 – 2026-03-31
• キーワード: 寄生蜂 / ウイルス / 軍拡競走 / ゲノム 編集 / 寄生蜂致死因子 / 水平伝播

研究実績の概要

チョウ目昆虫には、多様な寄生蜂やウイルスが天敵として存在する。これらの天敵は、宿主昆虫（あるいは寄主）との軍拡競走を経てそれぞれ天敵としての地位を獲得したと考えられている。しかし、申請者らは、これらの天敵間に非常に緊密な競争排除のしくみが存在することを発見した。すなわち、ヤガ科昆虫の天敵であるエントモポックスウイルス（二本鎖DNAウイルス、以下EPV）のゲノムに、寄生蜂致死因子（Parasitoid Killing Factor: PKF）が保存されている事を発見した。このPKFのホモログは、昆虫に感染する多様なDNAウイルスやシロイチモジヨトウなどヤガ科昆虫のゲノムにも保存されていた。寄生蜂は、昆虫にとっては排除しなければならない宿命の天敵であり、ウイルスにとっては共通の宿主を奪い合う競争者である。PKFは、ウイルスと昆虫にとって共通の敵である寄生蜂を排除するためだけに水平伝播し保存されているのだろうか？それとも寄生蜂の排除以外に何らかの利益をもたらしたのだろうか？本研究は、PKFが寄生蜂を殺すしくみを明らかにし、PKFがウイルスと昆虫間を水平伝播しその両者に今日まで保存されている理由すなわちその適応的意義を解明することを目的とする。
2021年度は、PKFをもつ昆虫であるシロイチモジヨトウを用いたゲノム編集技術の確立と昆虫ポックスウイルス由来のPKFの発現を大腸菌を用いて検討した。シロイチモジヨトウを用いたゲノム編集については、非破壊でのDNA抽出方法を開発した。大腸菌を用いたPKF遺伝子の発現については、通常の大腸菌を用いた方法では、タンパク質発現まで至らなかったため、ベクターや細菌の株や培養方法などを検討したり、他の発現方法を検討する。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

チョウ目昆虫と寄生蜂やウイルスをめぐる競争排除のしくみに寄生蜂致死因子（Parasitoid Killing Factor: PKF）が関与していることを報告する論文を発表することができた。また、ゲノム 編集については、非破壊で昆虫を殺さずに同一個体からDNAを抽出する方法が開発できた。

今後の研究の推進方策

CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集によりPKF遺伝子欠損シロイチモジヨトウを作出する。また、PKF遺伝子を細菌やバキュロウイルス を用いて発現させる。

研究成果

• [国際共同研究] サスカチュアン大学(カナダ)
  • 国名: カナダ
  • 外国機関名: サスカチュアン大学
• [国際共同研究] バレンシア大学(スペイン)
  • 国名: スペイン
  • 外国機関名: バレンシア大学
• [国際共同研究] 安東大学(韓国)
  • 国名: 韓国
  • 外国機関名: 安東大学
• [雑誌論文] Horizontally transmitted Parasitoid Killing Factor shapes insect defence to parasitoids (2021)
  • 著者名/発表者名: Gasmi, L. , Sieminska, E., Okuno, S., Ohta, R., Coutu, C., Vatanparast, M., Harris, S., Baldwin, D., Hegedus, D.D., Theilmann, D.A., Kida, A., Kawabata, M., Sagawa, S., Takatsuka, J., Tateishi, K., Watanabe, K., Inoue, M.N., Kunimi, Y., Kim, Y., Erlandson, M. A., Herrero, S., Nakai, M.
  • 雑誌名: Science 巻: 373 ページ: 535-541
  • DOI: 10.1126/science.abb6396
  • 査読あり / 国際共著
• [学会発表] アスコウイルス感染虫体液は寄生蜂細胞をアポトーシスにより致死させる (2021)
  • 著者名/発表者名: 川畑 美桜 、渡邊 和代、井上 真 紀 、 仲井 まどか
  • 学会等名: 日本応用動物昆虫学会
• [備考] 昆虫ウイルスと寄生蜂の競争関係は？
  • URL: https://web.tuat.ac.jp/~biological-control/?page=Virus%20vs%20Parasitoid