研究課題/領域番号 |
21H04729
|
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
野々村 賢一 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (10291890)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
|
キーワード | 減数分裂 / 植物 / イネ / 小分子RNA / エピジェネティクス / 細胞壁 / カロース / 葯 |
研究実績の概要 |
イネの葯で減数分裂特異的に発現する小分子RNAを中心とした細胞間シグナル因子による、細胞非自律的な減数分裂染色体のエピゲノム制御機構の解析を目的とする。2022年度は主に以下の3つの成果を得た。 <1. 小分子RNAと結合するイネAGO4の解析> イネAGO4に結合する小分子RNAを網羅的に解読した。その結果、5'末端がアデニンの24塩基長(24 nt)の小分子RNAと最も結合親和性が高かった。それらRNAが由来するイネゲノム領域は、減数分裂特異的24nt phasiRNA前駆体領域が3番目に多く、AGO4/24塩基長RNA複合体がイネの減数分裂で重要な役割を果たす可能性が示唆された。単離した雄性減数分裂細胞をサンプルとして減数分裂染色体のDNAメチル化にAGO4が及ぼす影響を解析すると、数百カ所で違いがみられた。 <2. 細胞壁リプログラミング関連遺伝子の機能解析> 雄性減数分裂の開始・進行に機能するカロースは、植物ストレス応答における活性酸素(ROS)との共役が知られる。そこでROS生成酵素RBOHの変異体解析を行ない、予想通り、RBOHの減数分裂開始・進行における重要な役割を明らかにした。カロース合成酵素GSL5、減数分裂特異的RNA結合タンパク質MEL2、そしてRBOHの全ての変異体でカロース欠損および減数分裂異常が観察された点で興味深い。 <3. 葯室のシン/アポプラスト輸送経路のイメージング解析> イネgsl5変異体の葯を透過電子顕微鏡で観察した。その結果、(1) 葯室を構成する細胞の原形質連絡(PDs)の数は、前減数分裂期および減数分裂初期にかけて減少すること、(2) gsl5変異体では、PDsの数が正常型イネと比較して有意に減少することを見出し、GSL5依存的なカロースは葯室においてPDs、すなわちシンプラスト経路の維持、に機能する可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<1. 小分子RNAと結合するイネAGO4の解析>では、減数分裂細胞でAGO4が標的とする減数分裂染色体領域を精査する手がかりを得ることができた点は大きな進捗であると考える。 <2. 細胞壁リプログラミング関連遺伝子の機能解析>では、新たにrboh変異体を用いた解析に着手し、これまでの成果と合わせて、ROS生成 (RBOH)、転写後遺伝子発現制御 (MEL2)/カロース合成 (GSL%)という一連の経路が減数分裂の開始・進行を促進する可能性が示された。このような知見は、全植物種を通じてこれまで報告がなく、極めて新規性の高い成果として、今後とも深く掘り下げる価値のある研究であると考えている。 <3. 葯室のシン/アポプラスト輸送経路のイメージング解析>では、減数分裂直前に雄性減数分裂細胞を包み込むように細胞間隙に高蓄積するGSL5依存的カロースが、減数分裂細胞のシンプラスト経路を担うPDsの維持に関わっている可能性が示された。これまでカロース高蓄積の生物学的解釈のひとつとして、PDsを遮断を介して、減数分裂細胞に流入するシグナルを一時的に遮断することで減数分裂進行に寄与するなどの説があった。しかし、今回の観察はその可能性を否定し、むしろPDsの数を適切に維持するために必要との結論に至った。小分子RNAを含む細胞間シグナル経路の制御を考える上で重要な成果と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
<1. 小分子RNAと結合するイネAGO4の解析>では、AGO4が標的とする減数分裂染色体領域についてより詳細に精査を進める。問題点として、ago4変異体では減数分裂期の染色体挙動などに明瞭な表現型が見られず、種子稔性も正常であるため、減数分裂染色体のメチル化に影響がみられたとしても、現時点でそれらが生物学的に重要な変化であるかを評価するのが難しい。そこで、AGO4のパラログとの二重変異体の作成に着手し、その表現型観察およびDNAメチル化解析を行う予定である。 <2. 細胞壁リプログラミング関連遺伝子の機能解析>では、前減数分裂期の葯へのカロース蓄積に寄与するRBOH、MEL2、GSL5の作用機序を明らかにするため、それぞれの変異体を用いた各々の遺伝子・タンパク質の発現解析を行う。また、RBOH依存的ROSの減数分裂開始・進行への影響をさらに詳細に解析する。 <3. 葯室のシン/アポプラスト輸送経路のイメージング解析>では、シンプラスト輸送経路を担うPDsの、葯室細胞における時空間的な分布パターンの概要が明らかとなったため、今度は、アポプラスト経路を担う細胞外小胞の解析に着手する。具体的には、イネ細胞外小胞膜に局在するタンパク質の特異的抗体などを用いて、前減数分裂期および減数分裂初期の葯室における細胞外小胞のイメージング解析などを行う。
|