研究課題/領域番号 |
21H04738
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八木 信行 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80533992)
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研究分担者 |
東田 啓作 関西学院大学, 経済学部, 教授 (10302308)
杉野 弘明 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30751440)
阪井 裕太郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30849287)
鈴木 崇史 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (40897667)
大石 太郎 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (80565424)
有賀 健高 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (90589780)
若松 宏樹 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), 研究員 (90722778)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 水産物消費 / マーケティング / 応援買い / 関係価値 / 生態系の価値 |
研究実績の概要 |
水産物は、規格品である工業製品とは異なり多様性を有している。この中、グローバルな規模でクロマグロなどの高級魚は過剰漁獲が問題となる一方で、日本のローカルレベルではシイラなどの不人気魚は買い手がつかず水揚げ港で投棄される例も多い。資源を有効に人類が活用するためにはAIなどを活用して顧客の個人的な商品嗜好を個別に分析し「おすすめ商品」を提示するアプローチが存在する。本研究ではこの基盤となる情報や考え方を体系的に整備するため、日本だけでなく外国の消費者などを対象とし、人間が自然環境や食物に対して感じる多様な価値観がどこから生じているのかを本質的に解明することを目指す。 本年度の成果としては、日本の消費者が、東日本大震災の被災地で生産される水産物に対して抱く価値を明らかにした。具体的には、消費者は被災地水産物を応援買いをする意思があるが、この意思は震災直後に高く、時間が経つにつれて弱まった点、また放射性物質への忌避感を有するが、これは震災直後から比較的高いレベルで続いている点、更には水産物を自己の関心事項(栄養摂取などの食品本来の価値)に基づいて消費する意思は震災直後より最近の方が高まっていることなどを解明し、学会誌にて発表した(鈴木・八木(2021))。これは、応援買いという社会的な行動を消費者がとる傾向がある時期は数年程度と短く、一方で自己の関心事項に基づく消費は永続する傾向を示した点で、意義が存在する。また別途、シンガポールにおいて水産物消費者の意識調査を実施し、抱卵した水産物への選好が消費者の宗教により異なる点も明らかにした(Sayeed et.al, 2021)。更にエコラベル製品に関する生産者側の意識が賞筆者と異なっている点を明らかにした(Ishihara et al., 2021)。研究成果は国際ジャーナルで発表しており、学術的貢献は一定水準で達成できたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年には合計5本の査読論文および2本の無査読の書籍等をそれぞれ出版した。これに鑑みれば、全体として順調に成果が上がっていると考えている。特に国際的な先行研究があまり触れてこなかった宗教ごとの水産物の嗜好について成果が得られた。これはシンガポール市場における研究(Sayeed et.al, 2021)で、カニのオスメス、メスの抱卵ガニに対する消費者の嗜好の差を宗教ごとに調査し、シーク教徒、キリスト教徒ではメスの抱卵ガニを食することへの忌避感がある程度存在する一方で、仏教徒はむしろ肯定的な嗜好を有していることなどの傾向が明らかになった。 また昨年までの研究において日本の消費者が福島の原発事故以降に「応援買い」という形で被災地の水産物を積極的に購入する意欲を有している点を初めて見出し英文および和文で発信しているが、2021年はこの時系列的変化を明確な形にして出版した(鈴木・八木(2021))。いずれも本研究での知見が存在したために論考が可能となった内容で、学問の進展、社会実装双方の側面において貢献ができる成果が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り以下の3課題を実施しつつ、研究分担者と定期的に会合を行うことで研究を推進させる。 (1)多様な価値と消費者行動の解明:様々な価値について類型化を行い、各価値のトレードオフ構造(競合関係や補完関係)などの把握を行う。特に、自然の恵みに関するnon-anthropocentricな価値や、人間が存在するために発生させるanthropocentricな価値の中でも関係価値(relational value)をどう把握するのかについて、FAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産チーム、およびUNESCO(国連教育科学文化機関)の世界遺産チームと連携を構築しながら、国際レベルの研究を実施する。 (2)価値の時系列的変遷と将来予測:海外を含めた水産物の産地価格、築地などの卸売価格、小売価格について、この変動を統計的に解析し、季節変化や年次的な変化を考察する。また、既存統計だけに頼る従来の方式に加え、長期にわたる新聞記事などのテキスト分析や、バイヤー等への質問調査などを併用する。この調査では、関係価値(relational value)と道具的価値(Instrumental value)の時間による変化のしやすさなどを解明する。 (3)AIの活用による多様な消費者層へのアプローチ手法の開発:過去のスーパー売上げデータ(例えばPOS:Point of Salesデータ)などを活用し、AI等を活用して食品の需要予測を行う。また需要予測と供給予測をマッチングさせるための最適な手法について環境心理学の理論を活用して研究する。まず、フードマイレージ、フェアートレード、エコラベル、応援買い、アグロツーリズムなどをキーワードに、これらが、どの消費者層にどのような条件下で影響するのかなどを解明する。
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