研究課題/領域番号 |
21H04750
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
黒田 清一郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 主席研究員 (30343768)
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研究分担者 |
佐藤 源之 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (40178778)
塩谷 智基 京都大学, 工学研究科, 特定教授 (40443642)
桑谷 立 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), グループリーダー代理 (60646785)
斎藤 広隆 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70447514)
藤巻 晴行 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 教授 (90323253)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 浸透流 / 物理探査 / デジタルツイン / AIサロゲート解析 / 環境制御 |
研究実績の概要 |
比較的な均質な模型地盤を作成するための土層の開発を行う。模型地盤は高さ1m、半径50cm程度以上の円筒型模型とし、鳥取砂丘砂を材料とし て作成した。このスケールではマクロな野外での非破壊診断技術である物理探査が適用可能であり、また土壌学分野におけるカラム実験の手法 の適用が可能である。浸透状況の実態を把握するためにX線CTやMRIによる診断技術およびそのような各種診断技術の画像解析技術の適用性の検討を行った。野外地盤でも地盤内を可視化診断できる技術として、電磁波を用いたトモグラフィ計測に基づく誘電率・導電率分布の評価によって 、地盤中の体積含水率や溶存物質の分布を推定を行う技術および、弾性波探査について音響信号を制御する能動的な診断技術である音響トモグ ラフィーと浸透現象等により発生する自然な音響振動(アコースティックエミッション,AE)による受動的な診断技術とを複合させた技術の開発を行った。そのために光ファイバセンサ等の計測機器の整備を行った。物理探査分野における地盤評価のための解析には、逆解析という技術が用い られているが、これには物理探査で用いる電磁波や振動などの伝播現象を数値計算で繰り返し解き、パラメータの同定とデータと数値モデルの 融合を試みるものであるが、数値計算を必要とすることから、その評価解析に非常に長い時間を有することが課題である。そこで、現在の深層 学習の代表的技術である敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれる技術により逆解析の高速なエミュレーション(代替実行)を行う技術の開発を行った。研究成果については国際地中レーダ会議等にて発表を行うとともに、前後に研究協力者となる欧米の研究機関と研究交流を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、土壌や地盤環境を人工的に制御することを通じて、そのプロセスにイメージング的な技術を導入することによって、常時浸透や地盤環境の変化の実態を監視しながら、結果としてそのダイナミックなプロセスのメカニズムを強化学習の手法で自然に学習することを目指すものである。その基本的な前提としてイメージング技術が通常の逆解析でできること、またそれをAIに置き換えてサロゲート解析ができることを示すことが重要であったが、前者についはイメージング対象の空間統計学的な性質をベイズ推定の方法に基づいて導入することにより可能であることを示した。また後者については敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いた方法で実現できることを示し、2件の特許申請と、2件の国際学会発表を行った。また今後は拡散モデルと呼ばれる新たなネットワークとその学習方法を導入する予定である。電磁波計測については通常トモグラフィ解析では用いられない複数のアレイアンテナセンサとその干渉解析により、計測用センサを多点で常時監視することで、時間変化の感度が高い計測システムを構築できることを明らかにした。弾性波探査についても同様に多点のアレイセンサにより常時観測するとともに振動波形の干渉解析により内部イメージング型の常時観測を実現する手法を開発した。それらを用いてラボスケールでの浸透実験を行い、浸透現象の追跡が可能であることを実証した。これらの実験結果と解析結果の一部を国際誌に投稿し掲載されるとともに、国際学会2件にて発表を行った。以上のことから、研究は予定通りおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
MRIによる計測は水分や浸透量の計測には有効であるが未だ装置としては高額、大型になる場合が多く、占有的に使用し物理探査技術の検証に用いることは困難と考えられた。一方でX線CT技術は、おもにX線の減衰率を指標としてイメージングを行うという原理から、水分変化に関してMRIほどの感度と定量性を有しないという欠点はあるものの、現在コンパクト化と低コスト化が進んでおり、浸透現象の可視化のために常時占有して物理探査結果との比較に用いることに有効な手段と考えられた。実際の計測基づく検討の上R5年度早々に購入手続きに入ることとする。また電磁波計測システムの実験装置については東北大学における計測システムおよび実験装置を農研機構に移動し、昨年度の実験結果をふまえ本年度本格的な実験を実施することとする。現在まで実験には標準的な砂を用いてきたが、今後農業分野における応用を考え、実際の畑圃場における土壌の調査を実施しそこからも実験資料を採取することとする。また漏水など広く農業土木的な分野への浸透に関する問題にも応用が可能になるよう、ため池の盛り土材料も視野に入れて実験材料の選定を行うこととする。実験装置については光電解センサなどの高度な計測技術も導入するが、一方で数多くのセンサを対象を取り囲むように配置したイメージング手法も重要であることから、3Dプリンタなどで自作できるアンテナなどのセンサ群と、現在低コスト化が進む高速・長時間計測が可能なADボードの導入を行う。本研究は一種類の非破壊診断技術に関する要素技術研究ではまく、複合的な物理探査を総合的に扱うものであり、その解析にAIを導入するという先進的な研究を目指していることから、米国等の研究者との連携が必要である。現在のところ弾性波探査とAI解析についてはMITと、音響や電磁波探査の技術開発についてはコロラドマインズ大学との連携を検討している。
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