研究課題/領域番号 |
21H04751
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市居 修 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (60547769)
|
研究分担者 |
岡村 匡史 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 実験動物管理室長 (00333790)
昆 泰寛 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10178402)
西邑 隆徳 北海道大学, 農学研究院, 教授 (10237729)
矢吹 映 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 教授 (10315400)
山崎 淳平 北海道大学, 獣医学研究院, 特任准教授 (20732902)
中村 鉄平 北海道大学, 獣医学研究院, 客員研究員 (80786773)
細谷 実里奈 酪農学園大学, 獣医学群, 助教 (80848797)
堀野 太郎 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 講師 (90448382)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
キーワード | 腎臓 / 慢性腎臓病(CKD) / 尿路関連リンパ組織 / UTALS/UTALT / 尿 / ケモカイン / 腎盤/腎盂 / MRL/lpr |
研究実績の概要 |
ヒトと伴侶動物では、個体の高齢化に伴い慢性腎臓病(CKD)症例が増えている。CKDは糸球体や尿細管間質の慢性炎症を主体とし、難治性である。近年、腎臓内に形成された誘導性 リンパ組織による慢性炎症の増悪と遷延が問題視されている。我々は腎盤(腎臓から尿を受ける嚢状構造、腎盂)に尿路関連リンパ組織(UTALT/UTALS)を発見し、その発達がCKD進行と強く相関することを見出した。本研究では、疾患モデル動物や伴侶動物・ヒト症例の精査を基軸に、CKDにおけるUTALS発達の意義、特に腎臓の慢性炎症との病態連関を解明する。さらに、UTALTが発達する理由として“CKD時の尿が導く腎盤上皮バリアの脆弱化とそれに続く尿の腎盤侵入”を証明し、尿の新たな存在意義“リンパ組織の発達誘導”を提唱する。 これまでヒトとマウスのUTALSは、移行上皮直下でT細胞、B細胞やマクロファージ等の免疫細胞で構成され、膠原線維や細網線維を含むことを明らかにした。また、腎盤UTALSでは、CCL・CXCLケモカインおよびその受容体遺伝子が発現しており、これらケモカインは主に腎盤間質に発現していた。腎炎モデルマウス(MRL/lpr)のUTALSは顕著に発達し、CCL・CXCLケモカインの発現は腎病理スコア(糸球体傷害、尿細管間質傷害、誘導性リンパ組織形成)と有意に正の相関にあった。また、MRL/lprの腎盤上皮は形態や細胞間接着分子(Occludin、ZO-1)の発現を変化させ、腎盤上皮バリア異常が示唆された。さらに色素の尿路逆行性投与実験において、MRL/lprでは色素が腎盤腔から腎盤組織に漏れ出た。今後、尿とUTALSの関係をさらに詳細に解析する。 腎盤を巻き込む腎臓病の重篤化は深刻であり、死亡率も高い。本研究では、UTALSを中心とした腎盤-腎臓病態軸の解明から、難治性疾患CKDの治療戦略に新たな道を切り拓く。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
得られた成果を基に、学術論文を公表することができた。研究計画は順調に進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
【計画A】UTALSは腎臓内の誘導性リンパ組織と協働して、あるいは独立して慢性炎症に関連するのか、マウスの下記解析結果から考察する。これまでUTALSの発達が腎臓の病理組織スコアと相関することを示した。今後は、下記解析を継続する。 ・解析1. 各病変を結ぶ構造の観察:組織消化を応用した走査型電子顕微鏡観察で、慢性炎症部位、誘導性リンパ組織、UTALSを結ぶ脈管や結合組織の有無を明らかにする。また、結合組織染色と細胞マーカーによる多重免疫染色を応用し、連続切片から3D組織を構築する。これらを基に、慢性炎症部位、誘導性リンパ組織、UTALSを結ぶ結合組織、血管・リンパ管、それらを介して移動する炎症細胞を観察し、各病期・群間で比較する。 【計画B】“CKD時の尿の変化による腎盤上皮の脆弱化やUTALSの発達”、またその逆、“UTALSの発達による腎盤上皮の脆弱化” を検証する。これまでの解析によって、CKDにおける腎盤上皮バリアの形態機能評価を実施した。 ・解析2. 尿中分子の選抜:マウスのCKD群が慢性炎症、UTALS発達、腎盤上皮バリア脆弱化を明瞭に示す病期を絞り、次の基準を全て満たす分子を選抜する。①疾患データベースで、ヒトCKD腎臓で増加する炎症関連の液性因子、②網羅的遺伝子発現解析で、CKDマウスの腎臓内で有意に増加する分子、③尿のプロテオーム解析で、CKDマウスの腎臓内で有意に増加する分子これらを基に複数選抜し、免疫染色と定量的PCRで腎臓内の発現動態を明らかにする。 ・解析3. 尿中分子・尿性状の変化による尿路上皮バリア脆弱化の検証:①解析2で選抜した尿中分子、②健常者・CKD患者の尿で培養ヒト尿路上皮細胞を刺激する。また、CKD尿の性状を模倣し、培養条件(浸透圧、尿素濃度等)を変化させる。その後、上皮細胞間接着分子の局在や発現の変化を細胞染色や定量的PCRで評価する。
|